ライアー 10
うるせえんだよ!
跳ねる用に開いた扉に飛ばされた。
男はいきなり僕の胸ぐらを掴んで引きずり、部屋に放り込んだ。
「好きにしろ、俺が帰るまでにまだいやがったらてめえを川に沈めてやる」
玄関に放置され、背後に叩きつけられた扉の閉まる音
僕は恐怖で立てなかった。捕まれた胸元を見て、そこに赤い染みがあるのを見て部屋の奥を見据えた。
あの男の拳は血に濡れていたんだ。
誰の?
誰の誰の誰の誰の。
わかってる。
怖いだけだ。
見るのが、知るのが、関わるのが、入り込むのが。
逃げよう。
見ちゃいけない。
関わっちゃいけない。
僕は関係ないんだ。
僕はまともな世界の住人なんだから…。
僕は這いずって体の向きを変えようとした。
その時
ふいに口の中に苦味が広がった。
あるはずのない、タンポポの青い苦味が。
それはアキヒトの笑顔の残像だ。
それは僕のあるかないかの勇気だ。
それは、あの日、振り返って僕の存在を確かめていた不安げなアキヒトの目だ。
タンポポの苦味を、ないはずの苦味を噛み締めて、僕は這った。
出口とは逆へ。
アキヒトのいる、奥へ。
跳ねる用に開いた扉に飛ばされた。
男はいきなり僕の胸ぐらを掴んで引きずり、部屋に放り込んだ。
「好きにしろ、俺が帰るまでにまだいやがったらてめえを川に沈めてやる」
玄関に放置され、背後に叩きつけられた扉の閉まる音
僕は恐怖で立てなかった。捕まれた胸元を見て、そこに赤い染みがあるのを見て部屋の奥を見据えた。
あの男の拳は血に濡れていたんだ。
誰の?
誰の誰の誰の誰の。
わかってる。
怖いだけだ。
見るのが、知るのが、関わるのが、入り込むのが。
逃げよう。
見ちゃいけない。
関わっちゃいけない。
僕は関係ないんだ。
僕はまともな世界の住人なんだから…。
僕は這いずって体の向きを変えようとした。
その時
ふいに口の中に苦味が広がった。
あるはずのない、タンポポの青い苦味が。
それはアキヒトの笑顔の残像だ。
それは僕のあるかないかの勇気だ。
それは、あの日、振り返って僕の存在を確かめていた不安げなアキヒトの目だ。
タンポポの苦味を、ないはずの苦味を噛み締めて、僕は這った。
出口とは逆へ。
アキヒトのいる、奥へ。
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