歩く、歩く 3
「何してるんですか」
藤田先輩は道端にしゃがみこんで何かを見ていた。 覗きこむとそれはタンポポの綿毛だ。
声をかけられ、先輩はゆっくり立ち上がる。
「綿毛になっちゃった…」
…だからなんだよ。
俺は曖昧に頷いた。
それから自分でもギョッとするような言葉が口をついて出た。
「先輩は全然平気なんですね、嘉納先輩があんなことになっても」
喧嘩を売ってんのか、俺は…。
いま初めて口を聞く相手にあまりにも無礼だとわかっていたけど…。
すると先輩は無垢とさえ言える笑顔を向けた。
「それ言われたの、十回目だよ。キリ番おめでとう」
その瞬間、まさか自分にあるとは思わなかった感情で全身を切り裂かれた。
羞恥と罪悪感。
先輩の笑顔が全て語っていた。
そこにあるのは間違いなく「喪失」の悲しみ。
誰よりも深い痛みと悲しみがあったから。
「お、俺は…」
なんて言えばいい?
言葉をなくした俺。
さっきの言葉を取り返せるなら何を差し出してもいいのに。
先輩は細い指でタンポポを手折ると、ふっと息を吹き掛けた。
あるかないかの風に漂い、綿毛は夕空へと舞い散っていく…。
藤田先輩は道端にしゃがみこんで何かを見ていた。 覗きこむとそれはタンポポの綿毛だ。
声をかけられ、先輩はゆっくり立ち上がる。
「綿毛になっちゃった…」
…だからなんだよ。
俺は曖昧に頷いた。
それから自分でもギョッとするような言葉が口をついて出た。
「先輩は全然平気なんですね、嘉納先輩があんなことになっても」
喧嘩を売ってんのか、俺は…。
いま初めて口を聞く相手にあまりにも無礼だとわかっていたけど…。
すると先輩は無垢とさえ言える笑顔を向けた。
「それ言われたの、十回目だよ。キリ番おめでとう」
その瞬間、まさか自分にあるとは思わなかった感情で全身を切り裂かれた。
羞恥と罪悪感。
先輩の笑顔が全て語っていた。
そこにあるのは間違いなく「喪失」の悲しみ。
誰よりも深い痛みと悲しみがあったから。
「お、俺は…」
なんて言えばいい?
言葉をなくした俺。
さっきの言葉を取り返せるなら何を差し出してもいいのに。
先輩は細い指でタンポポを手折ると、ふっと息を吹き掛けた。
あるかないかの風に漂い、綿毛は夕空へと舞い散っていく…。
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