さよならは五分前 30
外に飛び出した二人は道路の真ん中に立ち、顔を見合わせた。
「海斗、温度が…」
「ああ」
ここにきてから一定だった温度が変わっていた。
「寒い…」
簓の震える肩を抱き寄せ、耳障りな音を振り払うように首を振った。
「どうなってんの?」
ガチガチと歯を鳴らしながら簓は青ざめていた。
「上着とってくる」
二人は取ってきたジャケットに身を包み、それでも寒さに白い息を吐きながら佇んでいた。
「怖いよ…」
ザザ…ザザザ…
どんどん音が近づいてくる
「逃げた方が…」
言いかけた刹那、漆黒の闇空に閃光が走った。
唖然としたのはその色だ。鮮やかな赤い閃光。
切り裂いた傷口にしたたる血液のように禍々しい赤。
「海斗!」
音はいまや騒音と化し、簓は両耳を塞ぎ叫んだ。
風が吹き始めた。
あれほどに待ち望んだ変化は急激、強烈な形で二人を取り巻いた。
ザザザ
ノイズの音、閃光、風。
二人は小さかった。
余りにも矮小でとるに足りなかった。
寄り添うしかできず、さらに地盤が揺れ始めたアスファルトから動けずにいた。
ただ、お互いの手を、身体を離さずにいた。
感想
感想はありません。