夜鷹の床(17)
叫んだのはお理津であった。
「体売るなんて、軽々しく口にするんじゃないよ!」
「お前はいいから服を着ろ」
素っ裸で仁王立ちするお理津の姿が、そこにあった。与兵衛にしてみれば目の遣り場に困る。
「好きでも無い男に抱かれんのが、どんなに辛いか。だからあたしは、こんな風になるしかなかったんだ。だからあんたには、あたしみたいになって欲しくないんだ」
「お理津さん……でも、私……」
目に涙を浮かべるお理津に、狼狽えたのは与兵衛。お理津が彼の前で涙を見せるのは、これが初めてであった。
「あたしみたいに堕ちたら、もう後戻りできないんだ。あたしはもう、誰に抱かれても、何突っ込まれても、濡れちまうんだよぅ」
「……すまぬな」
甲斐性もない十石二人扶持の貧乏侍は、お理津を嫁に貰う訳でもなく、ただ燻っているばかり。そんな負い目が与兵衛にはあった。
「あんたが謝るんじゃないよ! 悪いけど、あたしはあたしで、一人で生きて行けるんだから!」
飢えを凌ぐためには仕方なかった。生きるためには、どんな事にも耐えて来た。しかし、畜生と同等に扱われ、性欲の玩具にされながら生き永らえる事に、一体如何なる意味があるのか。そう考えている時であった。お理津は、この与兵衛と出会ったのだ。
「くそっ!」
立ち上がり、二本差しを差して与兵衛は部屋を出てゆく。ばたん、と、木戸が大きな音を立てて閉まった。啜り泣くお理津に、紫乃は恐る恐る近づいて肩に手を乗せる。
「本当は、あんたに抱いて欲しいのに……」
傾いた西陽に土間が照らされて、淡い朱色に浮かび上がった木戸に向かい、お理津は嘆き掛けた。もうそこに与兵衛の姿は無い。
「お理津さん……」
鼻を啜り涙を拭う。
「ごめん、取り乱しちゃった。もう平気だよ」
気丈に笑い掛けながら、紫乃の髪を撫でる。
「何があっても、あんたは私が守るよ」
お理津の決意であった。
「体売るなんて、軽々しく口にするんじゃないよ!」
「お前はいいから服を着ろ」
素っ裸で仁王立ちするお理津の姿が、そこにあった。与兵衛にしてみれば目の遣り場に困る。
「好きでも無い男に抱かれんのが、どんなに辛いか。だからあたしは、こんな風になるしかなかったんだ。だからあんたには、あたしみたいになって欲しくないんだ」
「お理津さん……でも、私……」
目に涙を浮かべるお理津に、狼狽えたのは与兵衛。お理津が彼の前で涙を見せるのは、これが初めてであった。
「あたしみたいに堕ちたら、もう後戻りできないんだ。あたしはもう、誰に抱かれても、何突っ込まれても、濡れちまうんだよぅ」
「……すまぬな」
甲斐性もない十石二人扶持の貧乏侍は、お理津を嫁に貰う訳でもなく、ただ燻っているばかり。そんな負い目が与兵衛にはあった。
「あんたが謝るんじゃないよ! 悪いけど、あたしはあたしで、一人で生きて行けるんだから!」
飢えを凌ぐためには仕方なかった。生きるためには、どんな事にも耐えて来た。しかし、畜生と同等に扱われ、性欲の玩具にされながら生き永らえる事に、一体如何なる意味があるのか。そう考えている時であった。お理津は、この与兵衛と出会ったのだ。
「くそっ!」
立ち上がり、二本差しを差して与兵衛は部屋を出てゆく。ばたん、と、木戸が大きな音を立てて閉まった。啜り泣くお理津に、紫乃は恐る恐る近づいて肩に手を乗せる。
「本当は、あんたに抱いて欲しいのに……」
傾いた西陽に土間が照らされて、淡い朱色に浮かび上がった木戸に向かい、お理津は嘆き掛けた。もうそこに与兵衛の姿は無い。
「お理津さん……」
鼻を啜り涙を拭う。
「ごめん、取り乱しちゃった。もう平気だよ」
気丈に笑い掛けながら、紫乃の髪を撫でる。
「何があっても、あんたは私が守るよ」
お理津の決意であった。
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