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夜鷹の床(45)

[933] うなぎ 2012-02-15投稿
「さ、左平次様。これ以上したらお理津さんが壊れてしまいます」
「いいんですよ壊れても。ご覧なさい。この愉悦に溺れた顔」
 くつくつと、妖怪の如き笑い声が紫乃の耳元を舐める。その時、お理津の腰が幾度も跳ね上がり大量の淫汁が噴射され、紫乃はそれを顔に、胸元に浴びた。茫然と背中の柔らかい脂肪に背凭れる。
「さて。次はお前の番ですよ」
 汗まみれの背中を冷やす囁き。
「私は、まだ……慣れてませんから」
「慣れるのです。そしてお前も、お理津のようになるのです」
 目の前には、足を大きく広げたまま痙攣し続けるお理津。陸に揚がった魚のようである。その股間の前には、濡れぼそった茄子と胡瓜が転がる。その有り様を嘲笑するかのように喧(やかま)しい蝉の声。
「あっ」
 大音量の中で、押し倒された紫乃の上に左平次が覆い被さった。
 夕日色に染められた濡れ縁の照り返しで、壁も柱も淡い朱。静かに虫の声が降り注ぐ中、絡み合う二つの女体。左平次が帰っても尚、終わり無き真昼の暑さが続いていた。もう、幾度気をやった事か。
 横たわる互いの顔の前に互いの下腹部。紫乃の右手はお理津の膣に手首まで呑み込まれ、お理津の舌は紫乃の菊座を圧し広げる。ひとつとなる二人の体は、溶け合って混沌。その意識は雲の上でも漂うかのように、部屋の中をゆらゆらとさ迷い続け、冥府と俗世の狭間にあった。終わり無き悦楽の園。
「あたし恐い。このままだと、与兵衛さんへの想いとか忘れちまうんじゃないかって」
 汚れた小袖と単はたらいの中。暗くなってもよしずを揺らす生温い風。
「私は逆。与兵衛さんが帰って来たら、私がお理津さんに忘れられちゃうんじゃ無いかって、恐い」
「そんな事、無いよ」
「でも。与兵衛さんと夫婦になっても……変わらず紫乃を抱いてはくれますか?」
「……紫乃ちゃん」
 共に疲れ果て、ただ怠惰に身を任せていた。むせ返るような匂いが未だ立ち込めている。
「私は、こうしている今が幸せ。もし姉様が抱いてくれなくなったら私、死んじゃいます」
「こら、滅多な事言うもんじゃないよ。与兵衛さんが帰って来ても紫乃ちゃんはずっとここに居て、三人でまた暮らすんだよ。……まぁ、あんたにいい男(ひと)でも出来ちまったら別だけどさ」
「いい男なんか。お理津さんには与兵衛さんが居るけど、私みたいな人間には……」
「そんなこと……」

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