夜鷹の床(最終回)
「紫乃は幸せです」
お理津の腕の中で言った。膝頭に自らの股間をこすり付けながら。揺れる蝋燭の炎に照らされる中、四人の男など意にも介さぬと言った体(てい)で。
お理津もまた、この快楽の海に溺れていた。いけないと言いながらも体は求めている。無情な毎日なれど、与兵衛への想いは愛撫によって塗り潰されてゆく。人々の性欲を満たすために自分は産まれてきた。いつしか、そう思うようにもなっていた。
やがて絡み合う二人に幾本もの手が伸びて来る。燭台の火は消され、月光の照り返しだけでは誰が誰かも判らぬ混沌。闇の中でしかし、お理津と紫乃はしっかりと手を繋ぎ合っていた。陰唇も口もなぶられ、幾つもの乱れた息は不協和音。揺れる板の間。
人とは思えぬ咆哮が響いた。虫とも獣とも違う。気をやる中でお理津は恐怖を感じ始める。膣内で暴れるのは男、の筈なのに、まるで別の生き物のようにうねる。肥大化する。現実は闇に隠され、月夜に目覚めた欲情の魔物が暴かれる。脂肪の乗った腹の上は、雲の上にいるみたいで、背中にのし掛かる紫乃もまた後から突かれているらしく、波打つ肉布団。
梟の声は眠気を誘う。幾つもの寝息の中、人肌に包まれるお理津は安らぎを覚えた。
……誰でもいい。
誰かの腕の中があたしの寝床なんだ。思えばあたしは、本当に与兵衛さんの事が好きだったのか。
ただ、あの男に抱かれたいと願っていただけじゃないのか。
女房になるなんて最初から無理だって知ってた。
夜鷹はあたしの天職だったんだ。
数え切れないほど男に抱かれて来たけど、抱かれてなければ狂ってしまう。
たぶんあたしは狂ってしまう。
一人眠れぬお理津は、濡れ縁に腰掛け月明かりを浴びる。火照った体を夜風に晒す。紫乃も自分も、産まれながらにして夜鷹なのかも知れない。今の自分は本当は幸せなのかも知れない。そう、彼女は思った。
―完―
お理津の腕の中で言った。膝頭に自らの股間をこすり付けながら。揺れる蝋燭の炎に照らされる中、四人の男など意にも介さぬと言った体(てい)で。
お理津もまた、この快楽の海に溺れていた。いけないと言いながらも体は求めている。無情な毎日なれど、与兵衛への想いは愛撫によって塗り潰されてゆく。人々の性欲を満たすために自分は産まれてきた。いつしか、そう思うようにもなっていた。
やがて絡み合う二人に幾本もの手が伸びて来る。燭台の火は消され、月光の照り返しだけでは誰が誰かも判らぬ混沌。闇の中でしかし、お理津と紫乃はしっかりと手を繋ぎ合っていた。陰唇も口もなぶられ、幾つもの乱れた息は不協和音。揺れる板の間。
人とは思えぬ咆哮が響いた。虫とも獣とも違う。気をやる中でお理津は恐怖を感じ始める。膣内で暴れるのは男、の筈なのに、まるで別の生き物のようにうねる。肥大化する。現実は闇に隠され、月夜に目覚めた欲情の魔物が暴かれる。脂肪の乗った腹の上は、雲の上にいるみたいで、背中にのし掛かる紫乃もまた後から突かれているらしく、波打つ肉布団。
梟の声は眠気を誘う。幾つもの寝息の中、人肌に包まれるお理津は安らぎを覚えた。
……誰でもいい。
誰かの腕の中があたしの寝床なんだ。思えばあたしは、本当に与兵衛さんの事が好きだったのか。
ただ、あの男に抱かれたいと願っていただけじゃないのか。
女房になるなんて最初から無理だって知ってた。
夜鷹はあたしの天職だったんだ。
数え切れないほど男に抱かれて来たけど、抱かれてなければ狂ってしまう。
たぶんあたしは狂ってしまう。
一人眠れぬお理津は、濡れ縁に腰掛け月明かりを浴びる。火照った体を夜風に晒す。紫乃も自分も、産まれながらにして夜鷹なのかも知れない。今の自分は本当は幸せなのかも知れない。そう、彼女は思った。
―完―
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