遅い春は、錆びた桜
日毎(ひごと)、西に沈む夕日が焼けてきて、山々に鎮座する夕日に照らされて紅く燃える雲を眺める度に、胸に飛び込む風が何故か孤独を突きつけて居るようで、少し、いたたまれなくなるのが、とても忍びがたいのだ。
中学を卒業して間もなく、私は働きに出た。
母は、私が中学2年の時に離婚をし、その後、間もなく、病に犯され床に伏せる様になり
自分が生きて行くためにも、進学は諦めて勤めにでたのだ。
よって、学歴もなく、資格もない。
冴えない青春時代を送る最中に、母を看取った。
幸い、養う兄弟もなく、僅かな親戚だけで葬儀を済ませ、近くの食堂で会食を済ませ、久々の顔ぶれに別れを告げた。
親戚一同、みな、良い人達で、その時はそれだけでも、とても救われたのを覚えている。
そんな事もあり、自分1人が生きて行くので精一杯で、恋愛なんて、後回しになったまま、40も過ぎてしまっていた。
勤め先は、近くの工場で、社長さんは昔から何かと私の母や私を心配して、何度も助けて下さった恩人だ。
従業員も社長とその奥さんと私が正社員で、繁忙期には、ブラジルの人がたまにやってくる程度の極、小規模な会社だ。
しかし、お給料はそこそこ頂けているし、とても居心地もいいから、転職なんて考えもしない。多分、これからもそうだと思う。
いつもは、取引先の会社の方が完成品を取りに来るのだが、担当の方が、別の下請け会社にトラブルとかで、来れないそうなので、代わりに私がバンで運ぶ事となった。
先方の会社には何度も足を運んでいるので、受付も顔見知りで、軽く挨拶を済ますと係の方が来るまで、冗談を言ったり、世間話なんかもして、わりと仲が良かった。
この日も、例に漏れず、受付の女性と日常を嗜んでいた所、担当の上司の課長が現れ
「いやぁー、悪かったね!忙しいのに。えっと、どうするかな。そだ!荷物は裏に回してくれる?みんなで中に入れちゃうから」
と、そう言われて車を会社の裏手、納品口に車を回した。
すると、もう4人の男性社員が待ち構えていて、あっという間に納品が完了した。
「実はさぁ、今日、これから送別会なんだよねー。あっ、そうだ!谷口さんも良かったら社長も連れて、おいでよ?場所は、駅前の居酒屋だから!」
分かりました。と深深とお辞儀をして、自社に戻り、社長に一通り話すと、社長は
「いやぁー谷口君、悪いねー。ウチもウチで、こんばんは用事があってね、先方さんには悪いんだけど、谷口君、君、1人で行ってもらえないかなー?実はね?今日、娘のフィアンセがウチに来る事になってるんだよ。」
そう、私の名前は谷口。
そして、今、話に上がった社長には娘さんがいて、今度、結婚するのだ。
まだ、娘さんが学生の頃は、よく家の工場を手伝って、簡単な作業や後片付けなんかを手際よくこなしていた姿が頭に思い浮かんだ。
そうかぁ、もう結構前だもんなぁー、結婚するのかぁー
なんて、思いに耽ってしまっていた。
ややあって、社長に「承知しました、その旨、お伝えして、私だけ参加させて頂いてきます」
そう言って私服に着替えて会社を出た。
時間は、夕方の17:40分を少し回っていた。
ちょっと前まで、この時間は昼間と変わりなく日中だったのに、もう、やっぱり秋なんだなぁと思う。
いつの間にか、街路樹の葉っぱに色が付いて、歩道にも赤く錆びた桜の葉っぱが散らかっていた。
件の居酒屋に着くと、さぁさぁと先方の課長さんが席に案内してくれて、和やかに送別会が始められた。
定年退職なんだそうだ。
女性社員の2人が、退職される年配の男性に花束を送ると、退職される年配の方は涙しながら、丁寧にお礼を言っては、また涙を零していた。
一通り、セレモニーが終わると次々にお料理が運ばれ、お酒も順々に回された。
年配の主人公は、少し体調も悪い様子で、乾杯が終わって30分もするといそいそと帰宅して行った。
残った社員さん達も、段々と1人帰り、また1人帰りといった感じで、2時間も経つと、私と幹事の課長さんと受付の女性2人と若い男性社員が2人だけとなってしまった。
課長が、「そろそろ…」と席を立ち
「みんな、二次会いくだろ?会計してくる」と会計に行った。
元々、私も皆さんの事も何度も仕事でやり取りもあったし、違和感もなく、二次会に誘われる形となり、居酒屋を後にした。
女性社員の2人がカラオケのお店に行きたいらしく、課長も歌う気満々で、カラオケスナックに入った。
中は、スナックにしては店内が明るく、小さいが、ステージがあって、その上にはドラムのセットにアンプのスピーカーが4つ並んで、ステージ脇にはミキサーまであって、少し驚いた。
課長が、「ママ、どもー。連れてきたよ」
そう言ってカウンターに座り
「飲み物、みんな頼んでー!」
多分、課長の行きつけなんだと思った。
各々、ドリンクを頼むと女性社員の2人は早速、曲選びに夢中になっていた。
それを横目に課長が、肩を擦り寄せ、言ってきた。
「谷口君、君、あの二人をどう思う?」
ど、どう?とは??
理解出来ずに頓狂な声で聞いてしまった。
すると課長が再び
「だからぁー、あの2人だよ」とカラオケの選曲に夢中な2人を指さして言った。
「い、いやぁー、どうって言われましても….」
返答に詰まってしまう。
頭では解っていた。
恐らく、恋人、或いは嫁にどうか?と言う事なんだろうけど、流石に自分だけの意思でそうなるなんて事はないのだけれど、もしかしたら、今、カラオケを選曲している2人には、課長からそれとなく口に含められているのだろうか?
それならば、尚更に返答しづらくなってしまうではないか。
課長が、尚も私に顔を近づけて
「あの2人なんだけどね、今、両方とも独身なんだよ」
それに とはさんで
「ウチの社ね、今、あの2人しか女性社員いなくってね、辞められたら困っちゃうんだよねー」
再び、それに と、はさんで
「谷口君も、オタクの社長からは、独身で彼女も居ないそうじゃないか。あの2人にそれを話したら、興味持ってたんだよ。どうかなぁ?」
元々、この課長さんもとても優しくて思いやりある人なのは分かっていたし、この課長さんがそう言ってくれるのであればと思い
「解りました、少し、話し掛けてみます」
そう返すと、課長も安心したのか、ウンウンと頷いて喜んでいた。
直後、女性2人の歌が2曲続き、カウンターの席に戻って来た所で、私から話し掛けて見た。
「歌、上手かったね!ちょっとビックリしたよ」
と笑って見せた。
わたしの右に座った女性がハルカ31歳でバツイチ。その右に座った女性がミキ32歳でバツイチ。
2人ともバツイチで子供が居ないのだそうだ。
ハルカさんの方が怪訝な顔で反応して
「やだぁ!それって、あたし達が下手だと思ってたって事じゃーん」と笑っていた。
「いやいや、そんなんじゃないよー。純粋に、上手いな、って思ったから」とウンウンと頷いてみせてから
「ねっ?もう1曲、なにか歌って?」これは、本心だった。
とても、上手だったの本心で、もっと聞きたいと思った。
そうしてるウチに課長達、男性社員さん達は、若い女性のお店に行くとかでスナックを後にして行った。
その後も何曲かリクエストをして、女性社員の2人も
「じゃ、また会社で」と言い残して、スナックを後にして行った。
置いてけぼり感が漂うなか、ふと店内を見回すと、他に客はなく、ママと2人きりだった。
ママが「あらら、どうする?2人ぼっちじゃない。クスッ」と、微笑んだ。
今まで、ママをよく見ていなかったんだが
色白で少し面長で、とても美人な事に気がついてしまった。
女性には、あまり免疫が出来て居ないので、初対面の女性だと何を話したらいいのか、分からなくなるのだ。
暫く、無言のときが流れ、ママがカウンターの向こうでタバコに火を付ける。
私も、思いついた様にジャケットの内側からタバコを出し、火を付ける。
ママが「あら?お客さんも吸うのね?」
どうやら、少し遠慮していたらしく、良かった とこちらに向き直った。
段々とママと話が弾み、妻はいるのか?居ないのなら彼女はいるのか?
居ないのなら、女性経験は?などと赤裸々に聞かれ、困惑してしまった。
何故なら、その全てに答えがNoだからだ。
そう、経験はプロに1度だけ。と、そう答えると
ママは、目をまん丸にして「うそでしょ?ほんとなの?」
とても信じられないといった顔でじっとこちらを見つめてくる。
いや、見つめてくると言うより、よもや、睨んでると言った方が近いのかも知れない。
あわてて、「い、いや、本当に、本当です」言ってから、なにもこんな問答にムキになった自分が少し可笑しくて笑い初めてしまった。
すると、ママは「ほらぁ、そうやって騙すんだからぁー」とタバコを天井に向かって吹かした。
あわてて「いや、ママ。ほんとは本当だよ。ただ、ちょっとムキになって答えた自分が可笑しく思えちゃって」本当の事だ。
するとママも「あっ、ごめんね。つい、その歳でって思ったら、ちょっと無い話だから、ついね。ごめんね。」
私も笑いながら、「いいの、いいの、ママ、気にしないでね」
ママが、ありがとう と、言うと、なにか思い付いたらしく
「ね?そうだ、もうお店閉めるから、ちょっと付き合ってくれないかな?」
そういえば、ママって幾つなんだろう?
私の様子を伺って、斜めから見上げるママの表情はまるで少女なのだ。
よく見ると肌もツヤツヤしているし、ほうれい線も見当たらない。
などと思いながらも、ママの誘いに快く承諾した。
どこへ行くのだろう?
そう思っていると手際よく閉店の作業をママは、パッパと済ませ、タクシーを呼んだ。
タクシーの中、となりにママが座ると香水のいい匂いがする。
いや、髪の毛から香るのかもしれない、が、とても男がそそられてしう。
着いた場所は、こんな時に男と女が入るホテルだった。
さすがにこれにはたじろいでしまった。
「ね?もしかして、嫌だった?」心配そうな目で見つめるママは、とても綺麗で可愛らしかった。
「い、いえ、嫌なんじゃないけど、こういう事って、ほんとにした事がないかし、誘われた事も無かったから、驚いて。」と、やや俯いてしまった。
ママは、タクシーに代金を払うと「良かった。じゃ、行きましょう?」と私の腕を引き、先導して部屋を選び、手馴れた感じで部屋に入ってしまった。
本当に、いいんだろうか?
こんな美人なのに、夜の相手が自分でいいんだろうか?
どうしたらいいんだろう?
様々な心配やら、不安やらが頭をよぎる。
ママが、薄いコートを脱いで、ハンガーに掛けながら、背中越しに
「本当なのねー。女。知らないって。」
私は、まるで子供の様に「う、うん。」としか、この時は答えられなかった。
「大丈夫、安心して。わたし、こういう事も慣れてるし、嫌いじゃないの。それに、少し不憫でねー。私に任せてね」
そう言うと手際よく浴室に行き、浴槽にお湯を貯め始め、私の元にきて「さっ、コレぬいじゃお」
そう言って、私の服も手際よく脱がせると恥ずかしげもなく、ママは私の腕を取り、浴室へと向かった。
お互いに身体を洗い合うものよ。だとか
女の身体、どう?だとか
柔らかいでしょ?の言葉達に、いちいちと目眩する位に眩しく、それは、本当に女神と言うものが居たなら、きっと、こうなんだろうと思える位に輝いていた。
お互い、湯船に身を浸し、唇を重ねた。
本当に柔らかいもんなんだなぁ と、初めて実感が湧いてきた。
「もっと。触っていいのよ?優しくね?好きな所をたくさん触っていいのよ?」
抱きしめたり、柔らかいママの乳房をての平に包んでゆっくり優しく力を入れると、ママの口から、きっと熱く熱を持っているであろう吐息が漏れる。
白くて、細くて、長いママの首に唇を押し当てる。
唇でも、その肌の滑らかさを感じられる。
どこを触っても限りなく滑らかで、柔らかで。
白く輝いているのだ。
ベッドに移ってからは、夢中でどんな行為をしたのが?覚えてない程だった。
朝方、私のとなりで瞳を閉じて静かな寝息を立てているママの寝顔を眺めた。
別段、寝苦しそうでもなく、スヤスヤと眠っている。
自分は、きっとこれは夢で、今に目が覚めるに違いない。と、さえ、錯覚してしまう程に昨日の自分からは想像がつかない程の事だ。
未だに、リアルに思えない。
だが、事実なのだ。
そう思ったら、段々、ママが愛おしく思えて来てしまった。
が、多分、すいている事をママに打ち明けても、笑われて㈪㈫㈬㈭㈮㈯㈰されるだろうとも思った。
いや、きっとそうに違いないのだ。
朝まで、もう少しある。
少し、寝て置こうと目を瞑ると忽ち、睡眠に落ちたのであろう。
女性の優しい声で「朝よ?まだ、起きたくない?」と、聞こえた。
ゆっくり、目を覚ました。
今日になってしまった。
初めての女性との外泊の朝は、とても快晴で気持ちご良かった。
ホテルのサービスで出てきたサンドウィッチと昨日、ホテルに入る前に買ったコンビニのサンドウィッチを食べ終わり、ママが「お風呂にはいるけど、一緒にはいる?まだ、時間はあるわよね?」
うん、と頷いて脱いでママと一緒に湯船に浸かりながら、また、唇を重ねた。
ママが、「ね?あたし、どうだった?よくなれた?」
良いも悪いも無かった。
そう言う事でも無かった。
だから、こう言った
「あ、いや。良いとか、悪いとは違って、とても素晴らしかったし、今も引き続き、幸せを感じているけど、正直、これを表し方が分からなくて、困惑してる」
そう、素直に打ち明けた。
ママも「そうよね。初めてだもんね。きっとまだ、頭で処理出来てないのよね。」と、クスッと。
この日、私は休みだ。
もう少し、ママとゆっくりして
09:30頃にホテルを後にして、駅が近いそうなので、ママと駅まで歩く事にした。
道中、ママはこんな事を言ってきた。
「わたしね、お付き合いとか、結婚って、ちょっと懲りてるのね?もし、私を抱きたくなったら、何時でもお店に顔出してね。だけど、電話とか、教えて上げられないの。解って下さる?」勿論、笑顔でうんと答えた。
駅に着くと、ママは私と逆方面の列車らしく、早い私の列車を見送ってくれた。
帰りの電車で、ふと2人の女性社員の事を思い出していた。
少し、自分にも自信が持てた。ママのお陰だ。
そうだ、今度、どちらか誘って見よう。
断られてもいいじゃないか。
やるだけ、やってみよう。
まだ、日が登りきる前の秋の午前中は、風も爽やかで、なんか、ちゃんと始められそうだと思えた。
中学を卒業して間もなく、私は働きに出た。
母は、私が中学2年の時に離婚をし、その後、間もなく、病に犯され床に伏せる様になり
自分が生きて行くためにも、進学は諦めて勤めにでたのだ。
よって、学歴もなく、資格もない。
冴えない青春時代を送る最中に、母を看取った。
幸い、養う兄弟もなく、僅かな親戚だけで葬儀を済ませ、近くの食堂で会食を済ませ、久々の顔ぶれに別れを告げた。
親戚一同、みな、良い人達で、その時はそれだけでも、とても救われたのを覚えている。
そんな事もあり、自分1人が生きて行くので精一杯で、恋愛なんて、後回しになったまま、40も過ぎてしまっていた。
勤め先は、近くの工場で、社長さんは昔から何かと私の母や私を心配して、何度も助けて下さった恩人だ。
従業員も社長とその奥さんと私が正社員で、繁忙期には、ブラジルの人がたまにやってくる程度の極、小規模な会社だ。
しかし、お給料はそこそこ頂けているし、とても居心地もいいから、転職なんて考えもしない。多分、これからもそうだと思う。
いつもは、取引先の会社の方が完成品を取りに来るのだが、担当の方が、別の下請け会社にトラブルとかで、来れないそうなので、代わりに私がバンで運ぶ事となった。
先方の会社には何度も足を運んでいるので、受付も顔見知りで、軽く挨拶を済ますと係の方が来るまで、冗談を言ったり、世間話なんかもして、わりと仲が良かった。
この日も、例に漏れず、受付の女性と日常を嗜んでいた所、担当の上司の課長が現れ
「いやぁー、悪かったね!忙しいのに。えっと、どうするかな。そだ!荷物は裏に回してくれる?みんなで中に入れちゃうから」
と、そう言われて車を会社の裏手、納品口に車を回した。
すると、もう4人の男性社員が待ち構えていて、あっという間に納品が完了した。
「実はさぁ、今日、これから送別会なんだよねー。あっ、そうだ!谷口さんも良かったら社長も連れて、おいでよ?場所は、駅前の居酒屋だから!」
分かりました。と深深とお辞儀をして、自社に戻り、社長に一通り話すと、社長は
「いやぁー谷口君、悪いねー。ウチもウチで、こんばんは用事があってね、先方さんには悪いんだけど、谷口君、君、1人で行ってもらえないかなー?実はね?今日、娘のフィアンセがウチに来る事になってるんだよ。」
そう、私の名前は谷口。
そして、今、話に上がった社長には娘さんがいて、今度、結婚するのだ。
まだ、娘さんが学生の頃は、よく家の工場を手伝って、簡単な作業や後片付けなんかを手際よくこなしていた姿が頭に思い浮かんだ。
そうかぁ、もう結構前だもんなぁー、結婚するのかぁー
なんて、思いに耽ってしまっていた。
ややあって、社長に「承知しました、その旨、お伝えして、私だけ参加させて頂いてきます」
そう言って私服に着替えて会社を出た。
時間は、夕方の17:40分を少し回っていた。
ちょっと前まで、この時間は昼間と変わりなく日中だったのに、もう、やっぱり秋なんだなぁと思う。
いつの間にか、街路樹の葉っぱに色が付いて、歩道にも赤く錆びた桜の葉っぱが散らかっていた。
件の居酒屋に着くと、さぁさぁと先方の課長さんが席に案内してくれて、和やかに送別会が始められた。
定年退職なんだそうだ。
女性社員の2人が、退職される年配の男性に花束を送ると、退職される年配の方は涙しながら、丁寧にお礼を言っては、また涙を零していた。
一通り、セレモニーが終わると次々にお料理が運ばれ、お酒も順々に回された。
年配の主人公は、少し体調も悪い様子で、乾杯が終わって30分もするといそいそと帰宅して行った。
残った社員さん達も、段々と1人帰り、また1人帰りといった感じで、2時間も経つと、私と幹事の課長さんと受付の女性2人と若い男性社員が2人だけとなってしまった。
課長が、「そろそろ…」と席を立ち
「みんな、二次会いくだろ?会計してくる」と会計に行った。
元々、私も皆さんの事も何度も仕事でやり取りもあったし、違和感もなく、二次会に誘われる形となり、居酒屋を後にした。
女性社員の2人がカラオケのお店に行きたいらしく、課長も歌う気満々で、カラオケスナックに入った。
中は、スナックにしては店内が明るく、小さいが、ステージがあって、その上にはドラムのセットにアンプのスピーカーが4つ並んで、ステージ脇にはミキサーまであって、少し驚いた。
課長が、「ママ、どもー。連れてきたよ」
そう言ってカウンターに座り
「飲み物、みんな頼んでー!」
多分、課長の行きつけなんだと思った。
各々、ドリンクを頼むと女性社員の2人は早速、曲選びに夢中になっていた。
それを横目に課長が、肩を擦り寄せ、言ってきた。
「谷口君、君、あの二人をどう思う?」
ど、どう?とは??
理解出来ずに頓狂な声で聞いてしまった。
すると課長が再び
「だからぁー、あの2人だよ」とカラオケの選曲に夢中な2人を指さして言った。
「い、いやぁー、どうって言われましても….」
返答に詰まってしまう。
頭では解っていた。
恐らく、恋人、或いは嫁にどうか?と言う事なんだろうけど、流石に自分だけの意思でそうなるなんて事はないのだけれど、もしかしたら、今、カラオケを選曲している2人には、課長からそれとなく口に含められているのだろうか?
それならば、尚更に返答しづらくなってしまうではないか。
課長が、尚も私に顔を近づけて
「あの2人なんだけどね、今、両方とも独身なんだよ」
それに とはさんで
「ウチの社ね、今、あの2人しか女性社員いなくってね、辞められたら困っちゃうんだよねー」
再び、それに と、はさんで
「谷口君も、オタクの社長からは、独身で彼女も居ないそうじゃないか。あの2人にそれを話したら、興味持ってたんだよ。どうかなぁ?」
元々、この課長さんもとても優しくて思いやりある人なのは分かっていたし、この課長さんがそう言ってくれるのであればと思い
「解りました、少し、話し掛けてみます」
そう返すと、課長も安心したのか、ウンウンと頷いて喜んでいた。
直後、女性2人の歌が2曲続き、カウンターの席に戻って来た所で、私から話し掛けて見た。
「歌、上手かったね!ちょっとビックリしたよ」
と笑って見せた。
わたしの右に座った女性がハルカ31歳でバツイチ。その右に座った女性がミキ32歳でバツイチ。
2人ともバツイチで子供が居ないのだそうだ。
ハルカさんの方が怪訝な顔で反応して
「やだぁ!それって、あたし達が下手だと思ってたって事じゃーん」と笑っていた。
「いやいや、そんなんじゃないよー。純粋に、上手いな、って思ったから」とウンウンと頷いてみせてから
「ねっ?もう1曲、なにか歌って?」これは、本心だった。
とても、上手だったの本心で、もっと聞きたいと思った。
そうしてるウチに課長達、男性社員さん達は、若い女性のお店に行くとかでスナックを後にして行った。
その後も何曲かリクエストをして、女性社員の2人も
「じゃ、また会社で」と言い残して、スナックを後にして行った。
置いてけぼり感が漂うなか、ふと店内を見回すと、他に客はなく、ママと2人きりだった。
ママが「あらら、どうする?2人ぼっちじゃない。クスッ」と、微笑んだ。
今まで、ママをよく見ていなかったんだが
色白で少し面長で、とても美人な事に気がついてしまった。
女性には、あまり免疫が出来て居ないので、初対面の女性だと何を話したらいいのか、分からなくなるのだ。
暫く、無言のときが流れ、ママがカウンターの向こうでタバコに火を付ける。
私も、思いついた様にジャケットの内側からタバコを出し、火を付ける。
ママが「あら?お客さんも吸うのね?」
どうやら、少し遠慮していたらしく、良かった とこちらに向き直った。
段々とママと話が弾み、妻はいるのか?居ないのなら彼女はいるのか?
居ないのなら、女性経験は?などと赤裸々に聞かれ、困惑してしまった。
何故なら、その全てに答えがNoだからだ。
そう、経験はプロに1度だけ。と、そう答えると
ママは、目をまん丸にして「うそでしょ?ほんとなの?」
とても信じられないといった顔でじっとこちらを見つめてくる。
いや、見つめてくると言うより、よもや、睨んでると言った方が近いのかも知れない。
あわてて、「い、いや、本当に、本当です」言ってから、なにもこんな問答にムキになった自分が少し可笑しくて笑い初めてしまった。
すると、ママは「ほらぁ、そうやって騙すんだからぁー」とタバコを天井に向かって吹かした。
あわてて「いや、ママ。ほんとは本当だよ。ただ、ちょっとムキになって答えた自分が可笑しく思えちゃって」本当の事だ。
するとママも「あっ、ごめんね。つい、その歳でって思ったら、ちょっと無い話だから、ついね。ごめんね。」
私も笑いながら、「いいの、いいの、ママ、気にしないでね」
ママが、ありがとう と、言うと、なにか思い付いたらしく
「ね?そうだ、もうお店閉めるから、ちょっと付き合ってくれないかな?」
そういえば、ママって幾つなんだろう?
私の様子を伺って、斜めから見上げるママの表情はまるで少女なのだ。
よく見ると肌もツヤツヤしているし、ほうれい線も見当たらない。
などと思いながらも、ママの誘いに快く承諾した。
どこへ行くのだろう?
そう思っていると手際よく閉店の作業をママは、パッパと済ませ、タクシーを呼んだ。
タクシーの中、となりにママが座ると香水のいい匂いがする。
いや、髪の毛から香るのかもしれない、が、とても男がそそられてしう。
着いた場所は、こんな時に男と女が入るホテルだった。
さすがにこれにはたじろいでしまった。
「ね?もしかして、嫌だった?」心配そうな目で見つめるママは、とても綺麗で可愛らしかった。
「い、いえ、嫌なんじゃないけど、こういう事って、ほんとにした事がないかし、誘われた事も無かったから、驚いて。」と、やや俯いてしまった。
ママは、タクシーに代金を払うと「良かった。じゃ、行きましょう?」と私の腕を引き、先導して部屋を選び、手馴れた感じで部屋に入ってしまった。
本当に、いいんだろうか?
こんな美人なのに、夜の相手が自分でいいんだろうか?
どうしたらいいんだろう?
様々な心配やら、不安やらが頭をよぎる。
ママが、薄いコートを脱いで、ハンガーに掛けながら、背中越しに
「本当なのねー。女。知らないって。」
私は、まるで子供の様に「う、うん。」としか、この時は答えられなかった。
「大丈夫、安心して。わたし、こういう事も慣れてるし、嫌いじゃないの。それに、少し不憫でねー。私に任せてね」
そう言うと手際よく浴室に行き、浴槽にお湯を貯め始め、私の元にきて「さっ、コレぬいじゃお」
そう言って、私の服も手際よく脱がせると恥ずかしげもなく、ママは私の腕を取り、浴室へと向かった。
お互いに身体を洗い合うものよ。だとか
女の身体、どう?だとか
柔らかいでしょ?の言葉達に、いちいちと目眩する位に眩しく、それは、本当に女神と言うものが居たなら、きっと、こうなんだろうと思える位に輝いていた。
お互い、湯船に身を浸し、唇を重ねた。
本当に柔らかいもんなんだなぁ と、初めて実感が湧いてきた。
「もっと。触っていいのよ?優しくね?好きな所をたくさん触っていいのよ?」
抱きしめたり、柔らかいママの乳房をての平に包んでゆっくり優しく力を入れると、ママの口から、きっと熱く熱を持っているであろう吐息が漏れる。
白くて、細くて、長いママの首に唇を押し当てる。
唇でも、その肌の滑らかさを感じられる。
どこを触っても限りなく滑らかで、柔らかで。
白く輝いているのだ。
ベッドに移ってからは、夢中でどんな行為をしたのが?覚えてない程だった。
朝方、私のとなりで瞳を閉じて静かな寝息を立てているママの寝顔を眺めた。
別段、寝苦しそうでもなく、スヤスヤと眠っている。
自分は、きっとこれは夢で、今に目が覚めるに違いない。と、さえ、錯覚してしまう程に昨日の自分からは想像がつかない程の事だ。
未だに、リアルに思えない。
だが、事実なのだ。
そう思ったら、段々、ママが愛おしく思えて来てしまった。
が、多分、すいている事をママに打ち明けても、笑われて㈪㈫㈬㈭㈮㈯㈰されるだろうとも思った。
いや、きっとそうに違いないのだ。
朝まで、もう少しある。
少し、寝て置こうと目を瞑ると忽ち、睡眠に落ちたのであろう。
女性の優しい声で「朝よ?まだ、起きたくない?」と、聞こえた。
ゆっくり、目を覚ました。
今日になってしまった。
初めての女性との外泊の朝は、とても快晴で気持ちご良かった。
ホテルのサービスで出てきたサンドウィッチと昨日、ホテルに入る前に買ったコンビニのサンドウィッチを食べ終わり、ママが「お風呂にはいるけど、一緒にはいる?まだ、時間はあるわよね?」
うん、と頷いて脱いでママと一緒に湯船に浸かりながら、また、唇を重ねた。
ママが、「ね?あたし、どうだった?よくなれた?」
良いも悪いも無かった。
そう言う事でも無かった。
だから、こう言った
「あ、いや。良いとか、悪いとは違って、とても素晴らしかったし、今も引き続き、幸せを感じているけど、正直、これを表し方が分からなくて、困惑してる」
そう、素直に打ち明けた。
ママも「そうよね。初めてだもんね。きっとまだ、頭で処理出来てないのよね。」と、クスッと。
この日、私は休みだ。
もう少し、ママとゆっくりして
09:30頃にホテルを後にして、駅が近いそうなので、ママと駅まで歩く事にした。
道中、ママはこんな事を言ってきた。
「わたしね、お付き合いとか、結婚って、ちょっと懲りてるのね?もし、私を抱きたくなったら、何時でもお店に顔出してね。だけど、電話とか、教えて上げられないの。解って下さる?」勿論、笑顔でうんと答えた。
駅に着くと、ママは私と逆方面の列車らしく、早い私の列車を見送ってくれた。
帰りの電車で、ふと2人の女性社員の事を思い出していた。
少し、自分にも自信が持てた。ママのお陰だ。
そうだ、今度、どちらか誘って見よう。
断られてもいいじゃないか。
やるだけ、やってみよう。
まだ、日が登りきる前の秋の午前中は、風も爽やかで、なんか、ちゃんと始められそうだと思えた。
感想
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