大切な女(ひと)
私、サトシ35歳。大工をしています。職人の世界、女っ気など有りませ。ただ一人思いを寄せる女性が居ます。今世話になっている工務店のおかみさんです。光代さん年は53歳、切れ長の目、唇は小さく、色白で透き通るような肌、とても53歳には見えません。何よりも私に優しく接してくれます。先日、思いもよらない夢のような事が起こりました。その日は仕事が長引き私が最後に会社へ着きました。社長は元請け会社の旅行で居ません。同僚達は先に帰宅していました。光代さんに挨拶をして帰ろうとしたところ。「サトシくん、ご飯まだでしょ。一緒に食べない?」「有難う御座います。でも、汗と埃で汚れていますので遠慮しておきます。」「何バカな事言っているの。遠慮しないでこっちに来なさいよ。そうそう先にお風呂に入りなさいね。着替えはうちの人で良いわね!」と私は返事も出来ず言われるまま風呂へ入りに行きました。風呂から上がり居間へ呼ばれ食事の支度が整っています。「サトシくん、ビールで良い?」と冷えたビールを注いでくれます。「光代さんもいかがですか?」「わたしも頂こうかしら。」と光代さんにビールを注ぎます。グラスを交わしがら他愛もない話しをしていると光代さんが少女の様な悪戯っぽい目をして「サトシくん彼女は?」「光代・さ・ん!私が女っ気無いのを知っているでしょう。意地悪だなぁ!」そして私の気持ちを見透かすかの様に「じゃあ好きな人は・・・?」私は少し時間を置き「いますよ。大切な人が!」「誰っ?」光代さんは分かっているはずです。私は「アナタです。」と言ってしまいそうでしたが「言えません!」と言い切り「何で言えないの?」と切なそうな声で答えて来た。「その人の名前を言ったら何もかも失いそうで・・・私は意気地無しなんです。」私は光代さんの気持ちが私に向けられているのが判りました。2本目も無くなってきた頃、疲れのせいか酔いが回って来たようです。光代さんも頬をほんのり赤く染めています。私の中で何かがはじけ飛び散りました。
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