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堕ちた新妻2

[11637]  まさ  2008-08-21投稿
里美の夫、健介は大手町にある財閥系の金属メーカーの人事部に勤める平凡なサラリーマンである。人事の仕事は忙閑の差が激しく、里美が帰宅するともう帰っているということもあれば徹夜仕事になることもある。ただ新婚八ヶ月目に入った今月は、新卒社員の採用の仕事が大詰めで、ことさらに忙しい日が続いていた。
その日、里美が帰宅すると誰もいない部屋で電話が鳴っていた。七月も終わりに近づいた暑い日だった。里美は急いで受話器を取った。
「はい、高田です。」 閉め切っていた部屋の中は熱気が充満していた。
「あ、俺だけど、今日もちょっと帰れそうにないから実家の方に泊まるよ。」
いつもと同じ事務的な健介の声に、里美はたまらなくせつない思いがした。仕事を終えるのが遅くなると健介はたいてい都内にある自分の実家に泊まる。健介の実家は目白にあり、会社からタクシーに乗っても三千円ほどであったし、満員の電車での通勤の大変さは里美も身をもってわかっていたからそれを寛容に許してきたのだが、この二週間はそれが度重なっていたからさすがの里美も淋しさを感じ始めているのだ。
昨日も一昨日も、健介は帰宅していない。共働きの両親の一人娘として育ち、家に一人でいることに慣れてはいるけれど、ひとりぼっちの夜はやはり心細いし、淋しい。それが三日も続くなんて、と思った。 「仕事がそんなに大事なの?」
向こうが会社のデスクからかけていることは承知の上だった、里美はたまらず声を荒げてしまっていた。知り合ってからほとんど喧嘩らしい喧嘩もしたことがなかった里美としては、かなり思い切った口調だった。健介は何か言い訳をしようとしているようだったが、里美はそのまま邪険に電話を切った。
きっと健介はすぐにもう一度電話をかけて来るだろうと思った。聞いても仕方のない弁解は聞きたくなかった。それにいつも健介がするように、優しい声で諭すように話されるのもいやだった。それで最後は結局、里美のわがままということになってしまうのがわかりきっていた。
里美はその電話のベルが鳴る前に留守番電話に切り替わるボタンを押し、てハンドバックだけを手に家を飛び出した。

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