少女・伊織 七話
次の日、気づいたら自分のベッドに寝かされていた。
それもいつものこと。
昨日の自分の醜態を思い出すと吐き気がした。
初めてあの男の手にかかった時からもう5年にもなる…小学校六年の時だった。
あの時はただひたすら怖く、痛かった行為。
だが、中学一年のある日…それまで経験したことのない快感に襲われた。
その時の恐怖、自分が自分じゃなくなるような怖さを今でも覚えている。
それからは、本当の意味での地獄だった。
大嫌いな相手にあげる矯声…濡れる身体…堕ちていく自分をどうすることも出来ない。
母にだけは知られぬように注意していたが、それが母の為なのか自分の為なのかさえ解らない。
自室にある風呂場で念入りに身体を清める。
けれど決して浄化されることはない。
強制されたわけでもないのに、あの男を好きだと言った自分の口を濯ぐ。
「最低よ…私…あいつと同じくらい」
零れる涙。
暖かい湯に打たれながら、伊織は願っていた。
消えてしまいたい…と。
三条家の朝。
陽介の息子、武瑠(たける)は、朝食の席についた義理の妹…伊織をまじまじと見つめていた。
この高校一年生の娘は、日増しに美しく、妖艶になっていく。
清楚な見た目とは裏腹な、悲し気にけぶる瞳…柔らかそうな桃色の唇…優雅な物腰はとても16歳の小娘とは思えない。
思わず呑んだ生唾をごまかすように珈琲を啜る。
(親父がうるさくなきゃ、ものにしてやるが…)
陽介の伊織に対する愛情はいささか常軌を逸していた。
それはボンヤリした継母の黎子でさえ多少気にかかるようだったが、口出しまではしない。
この愛らしい義妹はすっかり最高権力者を手懐けてしまったようだ。
チラッと伊織と視線が絡まる。
ゾクッとするような瞳。
昨日より今日、彼女は確実に美しくなっていく…
武瑠は決心した。
伊織を…自分のものにしてみせる。
その様子を、そ知らぬ振りで観察する三条陽介の口元に笑みが浮かぶのを、家族は誰一人として気がつかなかった。
感想
感想はありません。