少女・伊織 10
神埼清香は今日の一件で眠れぬ夜を過ごしていた。
溶けるような甘いキス…熱っぽく光る真っ黒な瞳。
優しく頬に滑らせた伊織の指先。
たまらずに布団を引き寄せ、頭から被った。
あたし…どうしよう。
昨日までの伊織を想う気持ちは憧れだった。
自分にはない、可愛い女の子らしさを持つお嬢様。
成績優秀であの有名な三条家でお姫様のように暮らしてる。
でも今は…。
清香は自分の唇に触れると切なさで涙が出そうになった。
伊織の悩みは本当に自分のことだけだったのだろうか…?
(ああ…伊織!…)
清香は、今、恋に堕ちていた。
その頃、伊織は…。
ここのところ毎晩続いていた「お役目」が今日はなかった。
というのも急遽決まった取引先のパーティーに招かれたのだ。
いつにも増して上機嫌で黎子をエスコートし、今日は帰らないとお手伝いに告げていた。
伊織は嬉しさの余り部屋で飛び回っていた。
久しぶりにゆっくり寝られる。
ベッドでまどろみながら清香への愛情で満たされていた。
いつの間にか、伊織は安らかに瞼を閉じ…ぐっすりと寝入っていた。
一方三条武瑠は自室で炎のように猛っていた。
こんなチャンスがあるだろうか?
決意を固めたその日に、邪魔な父や義母がいないとは…その上、お手伝いも別棟で寝ているだろう…。
このチャンスを逃してはならない!
伊織の肢体を想うとそれだけで下半身が熱くうずく。
武瑠はそっと自室を抜け出した。
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