少女・伊織 16
未練がましく居座る武瑠をようやく帰し、やっと一息ついた伊織の瞳には数日前には見られなかった狡猾さが宿っていた。
まるで陽介の血が流れているような冷徹な光が。
勝負に勝った、と実感していた。
武瑠に抱かれていた間、真に乱れたことは全くなかった。
若い武瑠は父、陽介ほど粘りもテクニックもない。狂ったような情熱と執拗さで長年抱かれていた伊織にとって、武瑠を喜ばせることなど赤子の手を捻るようなものだ。
穢れていくことなど、今や気にならない。
自由の為ならなんだってする…。
そのさきに清香がいるなら…。
明るさを増していく空に伊織は微笑した。
朝の食卓はみなぎる緊張を孕んでいた。
黎子は昨夜のパーティーの疲れで起きて来ず、食卓は三人だけだった。
昔から三条家に勤めているお手伝いは能面のように立っているだけ。
武瑠は熱に浮かされたように伊織を見つめ、さらに憎悪のこもった目で陽介を貫いていた。
そんな武瑠を全く無視して伊織の手を堂々と握り、卑猥な目付きで珈琲を啜る。
伊織は武瑠には困ったような瞳を投げ、陽介にはおっとりと伏し目がちに答えていた。
武瑠は真っ赤になって拳を握っていた。
(畜生!よくも俺の目の前で…伊織に触れやがって)
涙さえ滲む。たった一晩でこんなにも激しい恋に落ちるとは。
お遊びのつもりが囚われてしまった。
切なげな顔でチラチラとこちらをみやる伊織も同じ気持ちなのだろう。
今日にでもまた、伊織はこいつに抱かれ、嫌がりつつも乱れるのか。
耐えられない、と思いながらどこか見てみたい、という相反する気持ちが奥底で渦巻いていた。
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