少女・伊織 17
登校時。
清香は伊織にどう声をかければいいか解らずにいた。
あの甘いキスは夢だったような気さえする。
しかし伊織は清香を見つけると息せき切って走り、腕を絡めた。
胸がドキドキする。
屈託ない仕草に、清香に憧れている女の子たちの羨望が集まるが、伊織自身は意にかいしていないようだ。
まるで別人のように明るく、眩しいくらい可愛らしい伊織がそこにいた。
「どうした?いいことでもあったの」
声が上擦る。
伊織はギュッと清香の腕を引き寄せた。
「清香、大好き」
初夏の朝、零れおちる木漏れ日のなかで伊織は囁いて、笑った。
大勢の生徒が行き交う通学路で、清香は愛しさに目眩さえ感じた。
「あたしも、だよ。誰よりも伊織が好き」
伊織はぴったりと小さな子供のように寄り添う。
幸せな若い恋人のように、二人は笑い合った。
二人は授業も上の空。
お互い、あまりにも「触れあうこと」を求めすぎていて目が合うだけで気恥ずかしかった。
伊織が他の少女と微笑み合うのを見ただけで、焦げ付くような嫉妬に苛まれ、清香自身も驚いた。
(あたしったらどうしちゃったの)
一方伊織は幸せすぎていつもの風景がいとおしく見えた。
いつもいやらしい目で見てくる大嫌いな数学教師にさえ微笑む始末。
恋って素敵。
得意な現国の授業の合間に手紙を書いた。
(清香へ
今日の放課後残れる?
備品庫よりいい場所、見つけたと思うの…)
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