それでも僕は 1
宮前亮二。
この名前を呟くと、僕…大和 鈴(りん)はおかしくなるらしい。
屋上に続く階段を降りてきた先輩は僕をチラッとみて寂しげな瞳をスッと隠した。
それから
「よお、奇遇だなあ、鈴ちゃん!こんなとこで会うなんてさ」
とか笑ってる。
いつもの明るい表情。
でもさ…。
僕は聞いちゃってたんだ
本当は亮二先輩がいまさっき転校生に振られたことを。
そして、僕は前から知っていたんだ。
亮二先輩が転校生を好きだったこと。
僕は…どうしていいか解んなくて、脇に避けて…何かを言おうとしたんだけど、舌が張り付いたみたいに動かない。
馬鹿みたいに眼鏡を外して、もう一度かけた。
意味のない行動…。
亮二先輩はキラキラ光る少し伸びた茶髪をかきあげて、ふと僕と目線を合わせた。
急な真顔にギョッとする
先輩は一段下にいる。
僕は小柄だからそれでようやく目線が同じになる
僕は恥ずかしかった。
まさか、先輩が気になって後を追って来たんです…なんて言える筈もなかった。
亮二先輩はジッと僕を見て、言った。
「鈴、お前、彼女いるの…?」
意外な質問。
「い、いませんよ」
オロオロして、どもる。
「…なあんだ。しょうがね〜なあ(笑)
お前、モテそうなのに。ほら、流行りの草食系男子って感じで」
…草食。
まあ、そうかな…。
「鈴、眼鏡ズレてんぞ」
先輩は笑って僕の縁の細い銀色の眼鏡をつまんで調節してくれた。
…ああ。
そして、前々から疑っていたことが…どうやら判明したらしい。
じゃ〜な、と言って消えていく先輩の後ろ姿に思ったこと。
気づきたくなかった。
僕は
先輩が好きみたいだ。
その証拠に、ほら…。
夏服の奥で、心臓が破裂しそうじゃないか…。
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