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魔女【36】

[2608]  CORO  2009-08-13投稿
こんなところに、お店なんて無いはずだし…。

10分ほど薄暗い道を歩いて、
二人は古いアパートの一室に入って行った。


あたしは、足音を忍ばせて、二人が入ったドアに近づいた。


まだ、玄関先にいるらしく、微かに話し声が聞こえる。


あたしは、耳をそばだてた。

(もっと、自由に逢いたいわ。)


(そう、無理を言うな。千絵が、帰って来てるんだから、…。アイツ、ファザコンみたいで、なかなか…)


(もうっ!せっかく家出したのに、わざわざ京都まで迎えに行くからよ)


(だって、仕方ないだろ?病院から迎えに来いって連絡来たんだから…)


あたし、ドアに向かって、体当たりしてた。


鍵は簡単に壊れて、
あたしは玄関に転がり込み、
女の人にぶつかった。


「きゃあああっ!」


女の人はその場に倒れて、大袈裟な声を上げた。


その横でパパは固まってる。


あたしは、パパを押しのけ、玄関脇の台所に上がった。

流し台の上にあったフルーツナイフを握り締め、
玄関に取って返す。


「千絵!やめろっ!」


あたしを抱き止めようとするパパを、
ナイフを持った手で振り払う。


「うぎゃっ!」

パパが腕を押さえて蹲った。


あたしは女の人に、馬乗りになった。


「きゃっ!ち、千絵ちゃん。やめてぇ!」


叫んだ瞬間、
あたしは彼女の豊かな胸に、ナイフを突き立てていた。

「うぎゃあああっ!」

彼女が、絶叫した。


「許さない!絶対、許さないから!」

あたしは痴呆のように繰り返しながら、
胸に突き刺さったナイフを引き抜こうとする。

だけど、根本まで乳房に埋まったナイフは、簡単には抜けない。


「やめろ!千絵」


パパが、あたしに切られて血まみれになった腕で、
後ろから羽交い締めにする。


「離してぇ!あたし、許さない!許さないんだから!」


パパは、腕の力を緩めない。


「千絵っ!やめろ!
また殺す気か!」


耳元でパパが叫んだ。


また、殺す気か………。



そう言われて、

あたしの全身から力が抜けた。

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