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防犯カメラの女[六]

[3147]  多岐川 栞  2009-08-17投稿
女はハンカチで目頭を押さえながら、
「…〇〇大…学。経…済 です。〇…回、です…」
猛は馴染みの警察署の電話番号をアドレス帳から呼び出し、ケータイのボタンを押そうと助手席のドアを開けた時、女の口から、懐かしい母校の名前を聞いた!
再びドスンと助手席に尻が落ちて…ドアを閉めた
「〇〇大?!…あの、楠のある?…あのコート?テニスやってた?…体育館の横?にあるコート」
女の顔を見つめて尋ねた
「知ってるんですか?楠の木…テニスやってました。……??もしかして…〇〇大?ですか?!」
猛は返事はせずに、ゆっくりと、リクライニングを倒した。ポシェットから女の書いた書類を取り出し開いて目を通す。
「〇〇志乃さん、ですよね?…旧姓は?」
志乃の名乗った旧姓に記憶はなかったが……
「俺の、二年先輩です。奥さん。…隣の体育館でバスケやってました!」

* * *
志乃は助手席に座った店長と言う男の言うことは殆ど耳に入って居なかった…ただ、これから警察に連絡が成されると言うことだけは判っていた。
…万引き、犯罪者の自分、怒って息巻く夫の顔、会社での夫の立場、親達の顔、兄弟、友人たちの顔…死ぬしかないと腹を決めた。…子供がいなくて幸いだった。短い人生だった。…どんな方法を選ぼうか…痛くなくて…苦しまない方法…そんなことばかり考え、男の言うままに書類を書いた。
覚悟は決めていた。
男は自分と同じ大学の後輩だと言った。
「ごめんなさい。恥ずかしいわ。私なんか…先輩なんて。そんな資格ありません。あなたにも大学にとっても、恥だわ…警察でも大学のこと、聞かれるのですね?」
志乃は急に涙が溢れて来た。止まらなかった。
「…死ぬしか…ない…」
志乃は呟いた。貞淑に真面目な一善良市民だったつもりの自分が一瞬にして「犯罪者」のレッテルを貼られる瞬間に立ち会ったことになる
…涙が一層、溢れる!
10分か15分か…男は沈黙していた。
「死ぬ?んですか?先輩…死ぬ気になれば、何でもできますよ。」
男が沈黙を破って呟いた
天井を睨みつけている。
「全てを失って…生きるのですか?……これまで真面目に生きて来たつもりだから…回りの人達が…色んなものをくれました。…凄く大きなもの!…抜け殻のような人生なんて…」志乃はは言った
「償えばいい」と男が言う。掠れた声だった。

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