夜這い (三)
魚の干物やイリコ等を乾燥(日干し)させる籐で編んだ「籐ミイ」というものがある。
漁師の家の必需品である
義母は小型の籐ミイを持って戻って来た。
「美菜さん、この籐ミイをな、玄関先にぶら下げて置くんじゃ。『今夜はこの家にゃ、男はおらん!寂しいけん、お茶でも飲みに来んかえ』と言う合図なんじゃ。最初にそれを見つけた男ン衆が籐ミイを外すんじゃ。そうしてな、その男が『夜這い』ち言うてな、夜中に来てくれるんじゃ。男はな、朝4時に必ず帰るのが決まりじゃ」
「!お茶?お茶飲みにですか?男の人が?」
私は思わず義母に聞き返した。その時に強く興味があった訳ではなかった と言うのも、玄関に籐ミイが掛けられているのを見るのが、それ程珍しくなかったからである。
通勤の途中などにたまに見掛けることがあった。
そんな意味があったのを初めて聞かされて驚いたからである。なによりも、そんな意味を知っていながら、それを見ても、島の噂にも評判にもならず、悠然と時間が流れていく島そのもの歴史と言うか風習に驚いていた。
ああ、あの時、あの家のあの奥さんが…と思えば私は顔が赤らむ思いがしたのだった。
島にはまだ未熟で遠洋漁業船に乗れない男、会社組織の船に就職出来ない男、一部漁業ではない男たちが「青年団」として集会所に集まり、酒を飲んだり情報交換をするのを見ることもあった。
…男ン衆と言えば青年団のメンバーしかいないが…とも思った。
そうか、女達はそうして長い夫のいない半年間を互いに目をつむり、ストレスを解消しながら、助け合い励まし合って生きて来たのだ。誰に告げ口するでもなく、非難するでもなく。一つの生活の智恵と言えなくもないか
「そんな意味だったんですか、義母さん…」
ある意味、私は義母の思いやりが嬉しかった。
「私なら、義母さん、大丈夫です。ありがとう!色々と心配してくれて」
「私もね、でもな、他の年寄りから 叱られるんじゃ…美菜さんが可哀相じゃってな。このままじゃ美菜さんの身が持たん。何とかしてやらんか、と…寂しゅうて、美菜さんも出ていくじゃろう、てな。…心配で心配で…」
義母は涙を拭きながら私に話すのだった。
「義母さん!ありがとうもう泣かないで!…大丈夫!判った。判りました …もし、その時は義母さんに籐ミイを…お願いするから。ね?…もう、判りましかから…」何気に
私は確かにそう言った。
漁師の家の必需品である
義母は小型の籐ミイを持って戻って来た。
「美菜さん、この籐ミイをな、玄関先にぶら下げて置くんじゃ。『今夜はこの家にゃ、男はおらん!寂しいけん、お茶でも飲みに来んかえ』と言う合図なんじゃ。最初にそれを見つけた男ン衆が籐ミイを外すんじゃ。そうしてな、その男が『夜這い』ち言うてな、夜中に来てくれるんじゃ。男はな、朝4時に必ず帰るのが決まりじゃ」
「!お茶?お茶飲みにですか?男の人が?」
私は思わず義母に聞き返した。その時に強く興味があった訳ではなかった と言うのも、玄関に籐ミイが掛けられているのを見るのが、それ程珍しくなかったからである。
通勤の途中などにたまに見掛けることがあった。
そんな意味があったのを初めて聞かされて驚いたからである。なによりも、そんな意味を知っていながら、それを見ても、島の噂にも評判にもならず、悠然と時間が流れていく島そのもの歴史と言うか風習に驚いていた。
ああ、あの時、あの家のあの奥さんが…と思えば私は顔が赤らむ思いがしたのだった。
島にはまだ未熟で遠洋漁業船に乗れない男、会社組織の船に就職出来ない男、一部漁業ではない男たちが「青年団」として集会所に集まり、酒を飲んだり情報交換をするのを見ることもあった。
…男ン衆と言えば青年団のメンバーしかいないが…とも思った。
そうか、女達はそうして長い夫のいない半年間を互いに目をつむり、ストレスを解消しながら、助け合い励まし合って生きて来たのだ。誰に告げ口するでもなく、非難するでもなく。一つの生活の智恵と言えなくもないか
「そんな意味だったんですか、義母さん…」
ある意味、私は義母の思いやりが嬉しかった。
「私なら、義母さん、大丈夫です。ありがとう!色々と心配してくれて」
「私もね、でもな、他の年寄りから 叱られるんじゃ…美菜さんが可哀相じゃってな。このままじゃ美菜さんの身が持たん。何とかしてやらんか、と…寂しゅうて、美菜さんも出ていくじゃろう、てな。…心配で心配で…」
義母は涙を拭きながら私に話すのだった。
「義母さん!ありがとうもう泣かないで!…大丈夫!判った。判りました …もし、その時は義母さんに籐ミイを…お願いするから。ね?…もう、判りましかから…」何気に
私は確かにそう言った。
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