それでも僕は 11
「鈴のこと、知りたい」
先輩にそう言われて、僕は戸惑った。
「話すことがない…僕は平凡だから」
先輩の長い指がそっと触れて僕の頭を自分の肩へ引き寄せる。
「平凡な奴なんていないよ。お前には、お前の物語があるだろ」
それはね、先輩と出逢ってから生まれたんだ。
「僕は…先輩と出逢うまで、人と関わるのが怖かった。
一人でいいって本気で思ってた。
先輩が、僕を見ていたなんて知らなかったから…びっくりした」
クスッと笑って、先輩を見つめたら思いの外、真剣に見つめ返された。
痛いよ。
そんな目で見ないで。
僕は先輩から目を逸らして、話はじめた。
でないと変なこと言っちゃいそうだから。
「僕の両親は生きてるけど喧嘩ばっかりで…あんな風になるなら、なぜ一緒になったの?っていつも思ってた。
一人だったら、傷つかないし、喧嘩もない。
…関わり方がわからなかった。
そのままでもいいって、言ってくれる人なんていないってわかってたし」
素直に言葉が紡がれて、ポロポロ落ちてくる。
先輩といるとそうなんだ
古い皮が剥がれて、辛かった何かが「過去」に変わっていく。
誰かに話すと自分のなかで澱んだものが流されていく…。
先輩もそうならいい。
僕のいる価値は、それだけで充分だもの。
「鈴」
「なに?」
「そのままでいいよ」
…。
「そうゆうこと、言っちゃうとこが…卑怯」
先輩は笑った。
それから、もう一度言った。
「鈴はそのままがいい」
…馬鹿…。
先輩は残酷だよ。
優しいから残酷。
僕は笑った。
だって泣いたらこの関係…あやふやなバランスが壊れそうで。
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