まったくもう 1
風を切る自転車。
蒼く輝いて雲ひとつない紺碧の空。
僕は鼻唄を歌いながら、畦道を走っていた。
田舎の空気は時折、肥やしの匂いに息がつまることはあっても概ね爽やかだ…修学旅行で行った東京の人混みと空気の汚さを思いだし、複雑な気持ちになる。
憧れがないわけじゃないけど…僕みたいに呑気な奴が渡り合える世界じゃなさそうで気後れしてしまった。
高校二年後半にもなってまだ進路を決めかねている…大学に行くのか、専門に行くのか…働くのか…全く見えてない。
ヘッドホンからバンプの新曲が流れて胸が締め付けられる。
透明感溢れる歌声が自分だけに浸透していく贅沢を許して、もう一度空を見上げる。
変わらずに蒼く、どこまでも広がる空。
晴れ晴れとした冷たい東北の風景に変化はなく、僕は安心する。
耳に流れるクリスマスのフレーズに意味不明な切なさが襲う。
「彼女、欲しいな」
なんて呟いてみる。
周りがいつも呪文のように口走るから乗っかってみただけのこと。
地味で冴えない自分に彼女なんか出来るはずもなく…それより、僕に好きなコがいないのが問題なんだ。
高一の時はいた…っぽい
ぽいってのは、正しい。
だってクラスが変わった途端に意識しなくなったから。
それほど好きじゃなかったんだろうな、とか今は思ってる。
ギアチェン。
4から3へ。
軽い登り坂…ギアチェンすると自分がヘタレみたいに感じる。
することなすこと、考えることまで、平凡。
それが僕だ。
白川奏太という人間だ。
あ、名前だけ変わってるかな…シラカワソウタなんて芸能人みたいだって言われたっけ。
誰にって…。
悪友の、五十里 良夜。
こいつの名前も、変わってるね。
いかり・りょうや
地味な僕に相応しいネガでオタクな同級生。
ネト充だのリア充だの、最初はイミフな言葉だったが、今は大丈夫、ついていけてる。
僕はアニメに興味ないけど、熱く語る良夜には和むものがある…こいつも今をもがいているんだなあ…とかいうネクラな安心感だ。
さあ、ついたついた。
正に灰色の青春を閉じ込めた灰色の校舎が聳える
僕は重たい鞄を提げて、下駄箱へと向かった。
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