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ワンシーン

[1872]  にゃんこ  2010-09-16投稿

時計の針が逆さまに動いたみたいに。

血中濃度が一気に高まって心臓が膨らんだみたいに。
たかが。

たかが、柔らかなネコ毛が俺の肩に触れたくらいで。
たかが電車の揺れのせいで頭が肩に乗っかったくらいで。

はね上がって置き所ない胸の痛みが…突き抜けて響く痛みが…。

呼び掛ける。
頭んなかで。

ダメだよ。
触れちゃダメだ。

俺が、いま、触れたら…。こいつの髪に少しでも触れたら…。

俺達は、俺は…戻れない。それ以上を求めてしまう。
それでも、震える指先が伸びていく。
長い睫毛の影が、白い頬に落ちていて…たまらなく綺麗で…。

それに触れられたら死んだっていい。

こいつの目覚めたとき、側にいるのが俺で、一番にその黒目に飛び込むのも俺で…それだけで我慢しなきゃいけない。

同性だから?
友達だから?
叶わないから?

否。

そばに、いらんなくなるから。

いっそ、離れられたら…忘れられたら…。

コップの表面に膨らんだ透明な水。
表面張力で辛うじて雫にならないでいる水。
それが今の俺だ。

せめて。
この一瞬が続けばいい。
ほんの一駅。
たった一駅…。

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