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ラック・ガール #47

[2427] 輪廻 2011-03-03投稿
「………誰もいないのか……はぁ、はぁ、はぁ」

明らかに人気の無い店内は、
リルナの慣れ親しんだ光景からは隔絶したものだった。

―――いつもならマスターがこのカウンターで…。
いつもならあの舞台の上で…。

マスター、マスター………――――


「リルナちゃん……!」

声の主は店の奥から出てきたマキだった。


「あなたが久波くんね………。なかなか可愛いイケメンくんね」


リルナは『マスターは!?』と口を動かしたが、マキは首を振った。

「もう、連れていかれちゃった…。
あなたが働いた事実は最後まで隠していたわ。
あなたは嫁入り前の大切な娘だからって…。冗談じゃないわよね」

マキは顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れた。

――本当にマスターはいない。

この店にマスターがいないなんて…。

考えられない…。――――


「………物ヨ、忘れ物!」

「!?」

「私、眼鏡がないと、ものが見えなくって…。老眼かしら………ネ」

「どうした?…ああ、従業員か…。ん?随分若い娘が出入りしてるな?」

「…………従業員の子よ。男の子の方は私も知らない子……」

マスターはカウンターにあったお洒落用のダテ眼鏡を手にすると、
警察官に話した。

「正直、久波って名前を聞いた時には観念してたのヨネ。彼とは昔からの知り合いで…」

「そうか…。さ、用が済んだならさっさと行くぞ…」

マスターはリルナたちを振り返らず、
言った。

「久波くんみたいなイケメンて、
やっぱり中身が滲み出てるのよねェ。
あなたもそう思わないかしら?」


リルナは必死に声を出そうとするが、
上手くいかなかった。

マスターが、乗ってきたパトカーに向かって歩き出した。

「…………ありがとうネ。わざわざ」

「?…なにがだ?」

「私なんかのためにわざわざ、ありがとうネ」

リルナはその言葉を押し返すように、
叫んだ。

「ありがとうございました!!!!」

「!!!」

「?!」

「ありがとう…ございました!!!
今まで………たくさん…親切に……
親切に……してくれて…!!!!」

「なんだ?お前、若い娘とやはり繋がりがあるのか?」

「親切になんかした覚えないワ……」

「………?」

「”男”として、当然のことをしたまでヨ」

パトカーのドアが閉まった後、
リルナは今まで発することができなかったマスターへの感謝を、全て泣き、叫んだ。

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