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夜鷹の床(47)

[828] うなぎ 2012-02-15投稿
 風の匂いが変わった。過ぎ去った夏の暑さの代わりに、少しばかり高く感じられるようになった空の下、城下町に与兵衛が帰ってきた。
 長屋の狭い部屋は雨戸も閉められたまま、黴(カビ)臭く澱んだ空気に満たされている。
「どう言う事だ」
 前を向いたまま、傍らに肩を並べる久間に声を掛けた。
「どうもこうも無え。半月も前だったか、急に二人とも消えちまったんだよ」
 握る拳に力が入る。
「一体、何が有ったと言うのだ」
「さてなぁ。俺も市中を廻っているが、全く姿を見ねえ。本当にいきなり消えちまったんだよ」
 土間で膝を崩す与兵衛。
「なぜ、待っておらんのだ……」
「夜鷹なんてなぁ気まぐれなもんさ。その内ひょっこり戻って来るんじゃぁ無えか?」
 それは慰めの言葉に他ならないと、与兵衛も知っていた。文字でも書ければ、せめて手紙ぐらいはあっただろうか。しかし丁寧に片付けられた調度品。しっかりと閉ざされた戸板。これらが、人拐いなどではない事を物語っていた。
「お理津……」
 肩を落とす与兵衛を、久間はただ冷めた目で見下ろしていた。

 月が丸い。その明るさは、庭の石燈籠の影を苔の上にくっきりと映すほど。城下を川沿いに一里も歩いた田園に、忘れ去られた廃寺がある。廃寺と言っても床が綺麗に磨かれている事から、手入れをする者が居ると知れる。
 夜な夜な本堂で開かれる宴は鈴虫の声に奏でられ、しかしながら合間に聞こえる呻きや喘ぎ。男たちの顔は貪亂に醜く歪み、その様相はまるで魑魅魍魎の酒盛り。
 久間とその岡っ引きの喜作、町方与力の峰岸、それに長屋の大家、左平次。酩酊する四人の男たちの中心に仰向けで横たわるふたつの肢体は、お理津と紫乃であった。揺れる蝋燭の炎に照らされる中、絡み合う女体。
 寺には沢山の供え物があった。近在の百姓たちが持ち込んだ物である。そのお陰でお理津と紫乃は暮らしには困らなかったが、昼夜問わず訪れる百姓たちの相手をすべく足を開いていた。ここに居る四人もまた、足しげく通い詰めている。
 結ばれる筈も無し。と、言い切ったのは峰岸であった。役目を持つ武士と夜鷹風情では身分が違い過ぎる、と。結ばれるためには与兵衛が役目を捨てひっそりと内職に勤しむか、ともすれば武士という身分を捨てる他、あらずと。左平次も久間も、口を揃えて峰岸に同意した。

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