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潤沢な愛‐1

[3831]  ピューマ  2009-05-14投稿
少女は立ち尽くしていた。

行く手の道には転々と黒く染みが落ちていた。

少女の頬に、道に落ちる筈の雨粒が落ちてきた。

少女は立ち尽くしていた。

その場には少女以外立ち入れないかのように、他に人陰は無かった。

雨粒が少女の身体を洗い始めた。

少女もまた瞳から涙を落としていた。

雨は刻々と激しさを増した。

少女の耳には雨音が聞こえるだけだった。


しかし、少女には直ぐに違う音が混ざってっている事がわかった。

(ギター……?)

少女の心に、灯りのようにその名詞が浮かんだ。

少女の脚は少しずつ、その音へと向かい始めた。

暗いアパートだった。

しかし少女には懐かしく感じられた。

アパートの入り口は開きっぱなしだった。

どこまでも廊下が続く。

雨と違う音はどうやら直ぐ近くから聞こえる。

少女は導かれるように向かった。

音のする扉の前に立ち、少女は叫んだ。

「助けて下さい」

少女の声は掠れていた。

少女は自分の声に驚いた。


扉の向こうから返事は来ない。

「助けて下さい」

少女は自分の出せる力があまりに少ない事に気付いた。

あと一回、少女はそう決めて叫んだ。

「助けて」

言葉の途中で少女は虚しくなった。

胸から咽にかけ痛みが走った。

涙が溢れて止まらなくなった。


少女は腹を抑えた。

座り込み途方に暮れた。



ギターの音で目覚めたのは翌朝だった。

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