遠い日の唄 11
静かに眼を開けたユウが、一番最初にしたのは微笑むことだった。
理不尽なくらい二人は知らない者同士…それでも、その笑みがあれば時間になんの意味があるだろうと思える。
乱れた服を恥ずかしそうに直すユウを、思わず抱き締めた。
「ユウ…話せよ、何を怖がってる?」
腕のなかで硬くなるユウ…それはそのまま、心の硬さだろう。
話したくないなら聞かなくてもいいかもしれない。
ただ、もしも家の事情で家出してきたのなら…俺はどうしたらユウを守ってやれるだろう?
そんな考えが伝わったのかユウは腕から逃れて、悲しげに微笑んだ。
さっきのしあわせな笑みとは雲泥の差。
笑みとは言えない、影みたいな微笑。
「ごめんなさい」
言えない、という意味のごめんなさい…。
そう取った俺は、浅はかだったんだろうか?
この時、他にできることがあったんだろうか…今の俺ならどうしただろう?
だが、この時の俺はただ、バカみたいに頷くしかなかった。
いいよ、話さなくても。
それしか言えなかった。
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