とりあえず、目の前で訳の分からん発言を取り留めもなく繰り返す自称、悪魔ッコから遠ざかるのと同時にラーメンを食いに行く為に、僕は部屋を後にした。
腹が減っては戦はできぬ。
腹が減っては……。
「悪魔ッコは倒せんっ!」
僕はぐっ、と右の拳を握り絞めた。
大体、あいつは何なんだ?
魔王?魔界?会議?尻尾?大鎌?
考えれば考えるほど、訳が分からない。
いや、始めから考える必要なんてないんだ……あの女は頭の配線が大きくずれているだけの『電波女』なだけだ。
断じて『悪魔』などではない……って……。
「覚悟ぉぉぉっ!」
一階にあるリビングに足を踏み入れた瞬間、全身を白装束に包んだ金髪の男が、両手ににぎりしめた大太刀を僕に向かって振りかざしてきたのだ。
「うわぁぁぁ」
「危ないっ!」
僕の叫び声がリビングに反響した瞬間、2階にある僕の自室から飛ぶ様に飛脚してきたマウアが僕の体に自身の華奢で細い体をぶつけ、僕の体を振り下ろされた太刀からかわさせた。
チッ、と言う男の舌打ちの音が耳に聞こえた。
「ふっ、ふざけんなぁ、何なんだよ一体、討ち入りか?暗殺か?それとも天誅かぁ、僕がいったいなにしたってんだよっ」
叫ぶ僕に殺意を込めた瞳を向ける金髪の白装束は、ぎりっと歯を噛み締めると、僕に太刀の切っ先を向けた。
「何をしただと?よくそんな事が言えるな、ガンドール!」
「はぁっ?ガンドール?んなの全くの人違いだ!見りゃわかんだろ、僕はどうみても鈴木だとか太郎だとかっていう、しょうゆ顔の日本人だろーがっ」
首をぶんぶんと左右に振りながら、必死に自分の国籍と指された名称を否定する僕を見た金髪は、さらに表情を強張らせる。
「五月蝿いわっ、海の藻屑となれ」
「ここは海じゃなーいっ」
ちょちょ切れる涙を流しながら、金髪が振り下ろす太刀に目をやり、いやいやと首をふる僕。
刹那、振り下ろされた金髪の太刀が僕の鼻先でピタリと止まった。
そして、手を止めた金髪の顔からは大量の油汗が滴り落ちていた。
「私は気が長い方じゃないの、命が惜しかったらとっとと失せたほうがいいよ」
不気味な笑いを含んだマウアの声が、僕に届いた瞬間、金髪は消える様に姿を消していた。
ここは日本だ。
うん。