『あッ、局長!俺のIQ100を継承した優秀な精子を注入する大事な器具です。元気で、バッキン状態で待機してます!』
『前の客から、硬度に問題アリ、との苦情が来ている』
『あッ、局長。前の客ですか?そんな筈はありません!射精の際は悦んで喘いでいましたし、旦那の前で失神させてやりましたが…それに、懐妊もさせましたし…もう、39才のおばさまでした』
『嘘だよ、オグリキャップ!夫婦で喜んでた。俺からも礼を言う。…で、いつもの通り、メモは認めん!二度言わない、頭に叩き込め!…〇月〇日、赤坂ニューグランドホテル 、ニイサンマルマル、ティラウンジ、カップル、男の真っ赤なネクタイが目印だ。
…以上だ』
『あッ、局長!女は美人ですか』
『馬鹿野郎!…女の顔は関係ねえ!チンポぶち込んで妊娠させて、なんぼ!判ったかね、種馬オグリキャップ君!』
『あッ、局長!了解…です…でも、やっぱ美人…』
ツー、ツー、…無機質な電子音…。イヤーな音!
顧客のニーズよって種馬が選ばれるらしい。
文科系、理工科系、公務員、医学部系…どんな後継者が、またはどんな能力を持った子供が欲しいのかを、あッ、局長が判断して携帯が鳴る。
俺は医者になって母親に少しは孝行をしなきゃならない立場だ。
だから、大学を卒業する時に、宝くじに当たったとか何とか言って家を立てて母親に住まわせるつもりだ。
だからお金を貯めることにした。ちょっと違法に別人名義の口座に貯めてある。
講義の他はバイトで空砲を撃たないために『受胎』に関する知識は殆ど学んだ。書籍を読み漁った
これまでの戦績は 25人になる。
赤坂ニューグランドホテルのティラウンジは夜の10時半には人はまばらだった。
あッ、局長から書類一式が入った大型の茶封筒を抱えて顧客を探した。
俺は約束の 30分前には約束の場所に到着することにしている。
真っ赤なネクタイの客は直ぐに判った。
俺は真後ろの席にさりげなく座った。
俺は名乗る前にそれとなく観察した。
後継者を他人に依頼してでも『欲しい』という人間に貧乏人は居ない。
二人とも身なりはいい。
女も美人の部類に入る。
大人しそうな夫婦だ。
さっきから会話がない。
前もって覗いた書類によると海運業を営んでいるらしい……。
10時55分。
俺は立ち上がって二人の前に立った。
『小倉です』
と言うと二人も慌てて立ち上がった。