「はぁ〜、食った食った!」
本棚があるにも関わらず、無造作に床に積み上げられた僅かな文庫小説に、古ぼけたベッド、そして小学生の頃から愛用している木製の学習机が置かれているだけの、実に殺風景な僕の部屋。
『行列のできない激薄キムチラーメン』を汁一滴残さずに平らげた僕は、ベッドに大の字に横たわっていた。
「ひょえ〜、願(ガン)の部屋って、ちゃんと見てもやっぱり何もないね―」
マウアは寝転がる僕を尻目に、置かれた小説をめくってみたり、何を考えているのか机を漁ったりしている。
「うーん、それにしてもお腹すいたぁ」
急にピタッと動きを止めたマウアは両の手で腹部を押さえながら、物欲しそうな瞳で僕を見つめてきた。
それもそうだ。
コイツは僕が善意と義理と人情で差し出した非常食であるカップラーメンを、『あっ、私……そゆの食べないから』と言って無下に僕の善意を踏みにじったのだから……。
悪魔って、ラーメン食わないのか?
うん、悪魔?
今、無意識に悪魔って浮かんだって事は、僕はコイツが悪魔であると信じ始めてるってことか?
「やっべぇ、悪魔払い……エク○シスト」
無意識に声が漏れていた。
階段をブリッジで駆け降りながらバナナを噛る僕……。
そして、マッチョの兄ちゃんと夜な夜な社交ダンス。
考えただけで不気味だ。
僕は、頭に浮かんだ悪夢を振り払う様に首を左右にブンっと振ると、ぶっきらぼうにマウアに言った。
「腹減ったんなら帰れよ」
「使命を果たすまで帰れないよ」
言いながら、じぃっと僕を見つめてくる。
血に飢えた狼の様な瞳は、さながら猫が獲物を狙っている様だ。
しかも、その視線は何故か僕の下半身に向けられている様にも見える。
急に凄みを帯びたマウアの瞳に、ビビった僕はベッドから上半身を起こし後ろに後ずさる。
「ちょっ……なんだよ?」
マウアは、左の人差し指を口にくわえると首を傾けてニコリと笑った。
そして僕にゆっくりと近づいてくる。
「ガンはさっき、ご飯食べたから元気だよね〜」
目の前まで来たマウアは、僕の顔元で悪戯っぽい笑みを浮かべた。
次の瞬間、息を呑む暇もなく僕の身体はベッドの上に仰向けに押し倒されていた。
そして、それと同時に右の腕に尻尾が巻き付き、僕に背中をみせる状態でお腹に跨がったマウアの左股が僕の左腕をベッドに固定させた。