吉岡は人生の絶頂の中にいた。あのスーパーアイドル優衣・カティーカリミーの全てが今、自分の物になろうとしているのだ。
だが吉岡は、その器量ではなかった。だから悲劇が起こった。
優衣を愛撫する吉岡の動きが止まった。何が起こったのか? 遠退く意識の中で吉岡は、届かない天使の姿を追いかけていた。
そして、絶命した―――
拓哉はカッターナイフを引いた。その瞬間、突き刺さったその部分から多量の血が噴き出した?
カッターナイフは吉岡の背中から心臓へと達していた。血しぶきを浴びて拓哉は、冷めた目で優衣を見下ろしていた。
(裏切り者めっ? )
瞳を閉じている優衣は、この惨劇に気づいていない。
(次はおまえの番だ? )
拓哉は優衣の首筋を見ていた。どこをかっ切るかを考えていた。
優衣は吉岡の重みに違和感を覚え、息苦しさのなか現実に引き戻された。
「吉岡… さん… ?」
血に染まった吉岡が最初に優衣の瞳に映し出された。
?
それから悪魔の形相の拓哉の殺気を受け取った。
「あ、ぁ… ? 」
あまりの恐怖に、優衣は叫び声さえも出せなかった。
自分に起きた悲劇を把握出来ずにいた。
沈黙。ふと拓哉は、死体になった吉岡を優衣から引き離した。
「い… いやぁあああっ? 」
死体の吉岡を見て、叫ぶ優衣。その口を拓哉が、カッターナイフを持った反対の手で塞いだ。
「しぃー 」
口元に人差し指代わりのカッターナイフを立てる拓哉。その冷ややかな表情には、いま殺人を犯したという動揺など微塵もなかった。
「今日が初めてなのか?」拓哉が質問したが、恐怖色に染まった優衣には意味が理解出来なかった。
「この男と寝たことがあるのか? 」
やっと意味が分かり、優衣は強張った仕草で首を横に振った。
「おまえは未だ処女なのか? 」
…
今度はコクリと小さく頷く優衣だった。
「今回は許してやる… 」
拓哉は呟いた。カッターナイフをポケットにしまい込んだ。
「シャワーを浴びよう」
拓哉が言った。