『なんだかたのしそうだな、』あっち、と ウエイトレスさんが戻った方をみて男がいった。
見れば数人のウエイトレスさんがキャッキャッとこちらをチラチラと伺っていた。
―コイツが原因か。
すぐにお持ちするんじゃなかったのか?!
そんなにコイツがいいかよ!
コイツだったら、周藤の方が… って、何考えてんだ、俺は!
『本当に面白いな、君は♪』
『は、はい?』
『今、呆れた顔した。と思ったら考え込んで赤面。顔がくるくる回る(笑)見ていて飽きないよ♪』
人の顔みて楽しんでるなよ!
睨み付けても笑ってる。効果なしだ。
程無く飲み物が運ばれてきた。さっきのウエイトレスさんとは違う人だったが、やはりコイツが気になるらしい。こぼしはしないがそれなりに手が震えている。
“ご用がありましたら、なんなりとお申し付け下さいませ”って、コイツだけに言ってる感じ。
あなたはウエイトレスですよ?メイドではありませんよ?
心の中で思った。だってご機嫌で戻るお姉さんに悪いから。
『どうした?冷めるぞ。』
ふと我にかえる。
具合悪いのか?と心配そうな視線とぶつかった。
『いえ。いただきます』
薄茶色のカフェオレ。ほんのちょっぴり苦い、お子様の…大人の味。
『うまいか?』
『はい』普通に。
『ならよかった!ここのはハチミツ入りだからな♪』
―。どこかで聞いたセリフ。ついでじゃないけど改めて男をみた。真っ黒な長めの髪。だけど嫌な感じじゃなくて、スッとした顔立ちのせいか大人の雰囲気だ。瞳の色もおんなじくらい真っ黒。少し前まで掴まれていた握力からしても体は相当鍛えられているだろう。
てか、コイツ…誰だ?
『あなたは誰だ?』
口をついた“日本語覚えたての外国人”のセリフ。
『えっ?気付いてなかったのか?!』
気付くもなにも…。
『知らない人とカフェオレなんか飲んでちゃダメだぞ?有くん♪』
へ?俺の名前―\r
『なんでっ…?!』
ザワッ―。
『危なっかしいな〜。俺が悪いヤツだったらどうするんだ?!(笑)』
ザワザワ―。急に入り口辺りが騒がしくなって聞き取りにくい。
『な、何?』
『紗矢!!』
『…兄貴』
同時に3つの声。1つは俺で、コイツの声。もう1つの声は―。
と。急に背後に寒気を感じた。
気がした。