「好き…?俺を?」
先輩は頷いた。
「ああ。ずっと好きだったよ、俺は俺なりに伝えていたはずだ。
でもお前は…いつも外さないその眼鏡と同じように、壁を作って事実から逃げてたんだろ?」
好き…だった?
だった…。
先輩はため息をついて、頬についた髪を払った。
こちらを見返した先輩の目は、俺を映してはいなかった。俺を通り抜けて遠くを見つめていた。
「わかったよ、風見。
もう、やめよう。付き合ってたわけじゃないから、別れるわけじゃないな。
終わろう、俺たちは…俺たちからは何にも生まれないみたいだ」
抑揚のない声…。
俺は…。
「先輩、俺…」
葉瑠先輩はツイッと横を向いて、小さく呟いた。
「…疲れた。
バイバイ、風見」
バイバイ。
小さな声。
大きく響く、扉の閉まるおと…。
残された俺は、睫毛に残る涙の感触を感じていた。
感じる、という感覚が未だにあることが不思議だ。 だって、心には何も響いていないのに。
望んで手放した関係。
これで…元通り。
そう、何も、問題ない。