「なんだよ、見んなよ」
覚えたての「ギャクタイ」という言葉を嬉しげに語ったやつの声が震えた。
体格では圧倒的に勝るそいつにないオーラがアキヒトにはあった。
その揺れる思念は「殺意」だったと今の僕は確信しているんだけど。
アキヒトが、一歩、近づくと名前も忘れたそいつは後退り…驚くほど素早く教室を飛び出した。
残された僕は…。
この時初めて、アキヒトと対峙したんだ。
つり上がった目の奥底に怒りを滲ませ、僕を見ていた
薄い唇には切れた跡。
体のどの部分に目をやっても治りかけの傷や古い傷痕があって、僕は息が苦しくなった。
「俺の頭がなんだってんだよ…ガキ」
同い年の奴にガキ呼ばわりされたのは後にも先にもこの時だけだ。
僕は唾を飲み込んだ。
ごめん、という言葉を出そうとして出てきた言葉は僕自身を驚かせた。
「一緒に、遊ばない?」
僕らはお互い地面に縫い付けられた影みたいに動かなかった。
いまだに、なんでこの時こんな言葉がでてきたのかわからないんだ。