夏休み。
僕は家の前に立つ、憮然とした顔のアキヒトを信じられない思いで見ていた。
「あんたの友達が迎えにきたわよ」
という母親の言葉から連想した友達のなかにアキヒトはいなかった。
家に何回誘っても来なかったのに。
まるで怒ったみたいな顔して立つ、棒切れみたいな少年と僕を母親は交互に見比べて笑った。
「なにしてんの、入りなさいな」
その瞬間、アキヒトの目が丸くなって、風船が耳元で弾けたみたいな顔をした。
「入んなよ!」
嬉しくて僕はアキヒトを引っ張った。
母親はぎこちなく頭を下げたアキヒトに「いらっしゃい、ゆっくりね」
と頷いた。
階段を上がって、僕の部屋に入るなりアキヒトが呟いた。
「お前の…」
「え?」
あまりに小さな一言だから遮ってしまった。
アキヒトは首を振った。
首を傾げていた僕が、アキヒトのいいかけてやめた言葉を知るのは数年後だ。
僕らはしばらく家で遊んで(といってもコレなに?コレなに?のアキヒトに答えていただけだが)
外に行くことにした。
DSやボードゲーム、トランプでさえしたことがないというアキヒトは、遊びの神様だった。