あの夏のことをいまアキヒトに話すと、素っ気なく忘れた、と言われるだけなんだけどそれは絶対に嘘だ。
空き地を不法占拠して、ある時は二人で、またある時は数人で遊びまくった。 始めはぎこちなかったアキヒトの人への接し方も数日するくらいには普通、とどうにか呼べるくらいにはなっていった。
さすがにタンポポを他の奴に薦めるのはやめさせたんだけど。
「ここは戦場だ!俺たちはゲリラで軍と戦うんだ!
全員武器を持て!」
アキヒトが唐突に叫んで、小枝を片手に茅に身を伏せると、僕らも一斉に従う。アキヒトはごく自然に遊びの世界に僕らを引きずりこんでしまうのだ。
持ってきたDSは結局使われることなくリュックに眠ったままになる。
アキヒトは極悪な司令官にもなれたし、正義感溢れる刑事にも、こそ泥でも、水戸黄門でもなんでもなれた
抜群の演技力とリーダーシップ。
これがあの無口な少年と同じなのかと疑う程の変貌ぶりだ。
「アキヒトって、すげえよなあ」
そんな風に憧れる輩が一気に増えた夏。
子分を従えたガキ大将みたいなアキヒト。
怖いもの知らずなアキヒト
…でも僕は見たんだよ。
そこに浮かぶ寂しさを。