「…おい、てめえ、名前を言え」
張り付きそうな喉から無理やり声が出た。
「ふ、藤田悠です」
男は途端に笑い始めた。
「そうか!てめえがか!
おい、てめえのふざけた母ちゃんに言っておけ!
俺んちに今度いちゃもんつけやがったら、あいつの腕を折ってやるってな!
いいか?
俺はな、れっきとしたあいつの親父なんだよ、てめえの母ちゃんに口出しされるこっちゃねえんだ。
あいつは犬よりタチがわりぃから躾てやってんだ。
今度うちに電話なんかしやがったら、てめえんちも痛い目みるぜ?」
男は笑いながら笑わない目で扉を閉めた。
僕は震えていた。
間違いなくアキヒトは扉の向こうにいるのに、何も出来ない無力な自分。
凹み、傷だらけの扉の向こうから男の怒鳴り声が聞こえた。
それに続く、うめき声。
僕は叩いた。
扉を叩いた。
怖かった。
逃げたかった。
それでも叩いた。
叩き続けた。
泣きながら、泣きながら、何度も何度も何度も。
何度も。