まんまと資産家の跡取りになったアキヒトは、猛烈な勢いで勉強していた。
学年トップを飾ったとき、アキヒトは言った。
「人が人に従うのはな、そいつが絶対的に自分より優秀だと認めた時なんだぜ?容姿も金も頭脳も、全て巧く使える奴が勝ち残れる…自分の限界に気づいて墜ちていく奴は屑だ!
勝てない奴ほど言うのさ…やればできる、こんなんじゃねえって。
そんな奴は屑だ!
…死ねばいい、あの世でほざけばいい、こんなんじゃねえってな」
寒いような目をして、僕だけに言う。
他の人には言えない暗く閉じ込めた想いを。
というより、試していたんだろ?
僕が君をどう思うのか。
「それは誰に対しての言葉なの?
お父さん?
それとも…お母さん?」
アキヒトの母親の話をしたのはこれが始めてだった。詳しくは語らないけど、僕は直感していた。
アキヒトを真に傷つけたのは父親ではなくて、母親なんじゃないかと。
アキヒトは仄暗い瞳を僕に向けた。
「俺に母親はいない」
背中に鳥肌が立った。
人間はここまで人を憎めるのかと。
そこにあったのは燃えるような憎しみじゃなく燠き火のように燻る憎悪だった。