もちろん疑われたのはアキヒトだったけど、呼び出しをくらった彼は澄んだ声で「僕じゃありません…調べて下さい」
と潔白を主張した。
アキヒトはクラスに帰り
「あんな汚いことを、僕はしないよ」
と呟いて静かに涙をこぼしたら、女子たちの「酷い、疑うなんて」という後押しがいつのまにか広がり、それまで疑っていた連中も
「生徒を疑う卑劣な学校」に話が流れていった。
ヒートアップして「授業をボイコットしよう」などと叫ぶ男子に「ありがとう…信じてくれて」
などと囁くアキヒトから僕は視線を外した。
どうして嫌いになれないのだろう?
結局その教師は免職になり女生徒は退学になった。
ふたりの人生を事も無げに変え、僕に向かってアキヒトは嘲笑する。
「お前のそういう顔が好きなんだ」
どんな顔をしてるっていうの?
沈んだ僕の肩を引き寄せて耳元に囁いた。
「俺の全部を知っているって顔」
…違うよ。
全部知ってなんかいない。
「金で買えないものの筆頭はさ、お前だな」
悪魔みたいな優等生は、無邪気な少年みたいに微笑んでみせた。