「俺が始めてお前んち行ったときさ」
ある日曜日。
広々として高価な家具で彩られたアキヒトの新しい部屋で思い出したように話始めた。
「俺が言いかけてやめたことあっただろ?」
僕は頷いた。
今とは全く違う、不器用でギクシャクした痩せっぽっちの少年。
「お前んちって、お前んちの匂いがする…そういいかけた」
「匂い?」
アキヒトは洒落たソファーに落ちつかな気に身を沈めてる僕のすぐ隣に腰を降ろした。
「うん。
幸せな家庭にしかない匂いがした。
美恵子がいて、お前がいて薄味の父ちゃんがいてさ。お前んちにくるたび、その匂いで身体中満たしたら、俺も普通になれるような気がしたよ…幻想だったけどな…」
「ならなればいいよ。
今から普通に。
どうしてなれないなんて思うんだよ」
アキヒトは肩を竦めた。
「なれるような気がするのと、なりたいのは違う。
俺は普通に生きて普通に死にたくない。
俺には幸せになる価値がある。誰よりな」
「それって、生い立ちが不幸だからとでもいいたいわけ?だから他の人を踏みつけてもいいって。
そういいたいの?」