無性にあの、初めての夏に帰りたくなることがある。
あんなふうに無邪気に笑っていたアキヒトがいて、僕がいて。
僕らはつかず離れずな、微妙な位置にいた。
もうアキヒトがどんなことを裏でやっているのか把握出来なかった。
高校二年で生徒会長になった時も、中傷していた生徒に何かしたらしいことは解ったけど詳しく知りたいとは思わなかった。
アキヒトの望む幸せがその先に本当にあるなら、それでいいと思っていた。
時々、誰もいないとき、アキヒトは静かに僕の隣に座る。
僕は黙っている。
お互いのお互いを想う複雑な感情が入り交じって、言葉にならない。
「いま、幸せ?」
会長になって、たくさんの取り巻きを従えて、小さな王者に僕は聞く。
たくさんの友達という名前の道化師。
本当の友達はいない、可哀想な嘘つき。
「どうかな」
自分自身を騙せなくなった時に僕の横に座る。
疲れきった横顔。
どれだけ走れば幸せになれるか図りかねてる子供がそこに見える。
「タンポポ、食べる?」
アキヒトは寂しげに笑った
「まだ食えるかな」
結局口にしないで、ずっと葉っぱを弄んでいたね。
自分自身みたいに。