「突然すみません、僕、佐藤さんの親戚なんですけど…部屋番号わからなくなってしまったので申し訳ないですけど空けてもらえませんか?」
インターホンに出た見知らぬ女性…おそらく主婦は、礼儀正しく困った様子の青年にすんなり扉を空けてくれた。
アキヒトはペロッと舌を出して
「許可がおりたぜ?」
と言った。
看板を叩き割った少年そのままの笑顔で。
「本っ当に嘘つき」
僕も笑って、エレベーターに乗る。
僕らは最上階まで行ってみることにした。
最上階に、小さなエントランスがあった。
高級マンションに相応しいこ洒落たガーデンプレイスになっている。
真夏だからか他に人影はなく、備え付けの木製ベンチに並んで腰かけた。
静かな時間が流れる。
蝉の声と風の音と葉擦れの音と。
「疲れた…」
僕の肩にアキヒトの頭が乗っかった。
ため息とともに吐き出された初めての弱音。
「…うん…」
他に何か言葉がでないかな…アキヒトを、アキヒトに戻してあげられる魔法の言葉はないかな。
ないのはわかってる。
それに今だけだってこともわかってる。
こんな優しい時間は。