「俺、嘉納先輩に憧れてて…それで平気な顔してる先輩が許せなくて。失礼なこと言って本当にすみませんでした」
言い訳としては上出来だろう。
けれど先輩はまじまじと僕の顔をみて笑いだした。
「違うね。君はアキヒトのことどうでもいいんだ。
…全く、そっくりだよ。
嘘つきは皆同じ顔をするんだなあ」
血流が勢いよく駆け巡って顔に集結している。
恥ずかしさに火を吹くとはこのことか。
恥の上塗り。
救い様のない馬鹿な俺。
先輩は何故か楽しそうに微笑んだ。
「君はアキヒトに心酔してる目をしてないよ。
むしろ嫌いなんだろ?
…いや嫉妬してるのかな、彼に。なりたいのかな、あいつに…」
穴があったら入り込んで自分自身を永久に埋めてしまいたい。
初対面の、たかがイッコ上の先輩に見透かされた簡単すぎる自分。
「俺は…え、と、あ、俺、大原誠司です…あの…」
言うべき台詞がでないから苦し紛れの自己紹介。
先輩は更に笑って、
「聞いてないけど、覚えとくよ」
といった。
軽いその一言に、何故か嬉しい俺がいた。
じゃあ、と動揺したまま自転車に跨がる俺に、先輩は一言投げた。
「またね」