二人でならんで、消えてしまいそうな嘉納先輩を見下ろした。
点滴からしか栄養を補給できないと人はこんなにすぐに痩せてしまうんだ。
自信に溢れて廊下を闊歩していた嘉納先輩のその姿は痛々しかった。
あんなコメントを入れた自分の浅はかさと愚かさを呪った。
「最近、ご両親も来ないんだ…」
先輩の里親だ。
悠先輩は極めて優しい手つきで、眠る嘉納先輩の額を撫でた。
そこに込められた愛情は、俺がどんなに望んでも得られないもので…。
「アキヒト、きたよ」
痛くなるような切ない声。
でも俺はわかってて来たんだ…。
自分に思い知らせる為に。
「タンポポもう咲いてないんだ。ごめんね」
二人だけの話だ。
俺はそっと見守っていた。
歌うように優しい声で話続ける。
もう季節は秋だよ。
蒼空が綺麗だよ。
受験勉強が進まないや。 この人は僕らの後輩だよ。君は知らないかな。
とっても変な人でさ、僕を好きなんて平気で言ったりするんだよ。
そっちは変わりない?
君はまだ、あの草原を駆けているの…?
もしこの世に汚されない一瞬があるなら、今の二人なんだろう。
俺はそっと、病室を出た…