「重男さん、来ましたよ」
いつものようにチャイムを鳴らす…と、間髪入れずに扉が開いてあたしは少なからずビックリして身を引いた。
待ち構えていたみたいじゃない。
重男さんは頭を下げて「梨香ちゃん、いらっしゃい」と言って笑った。
…?
無理してるのかな?
妙に明るいみたい。
むしろいつもより。
多分悲しみを取り繕って不自然になっちゃってるんだろうな…。
「じゃ、いつもみたいにお夕食作りますね」
あたしは前に買い置きしていた材料を頭に思い描きながら今日のメニューは筑前煮に決定した。
重男さんの好物だし。
「うん、うん、ありがと」
目を細めて嬉しそうに頷く
あたしはエプロンをつけて早速支度を始めた。
今日はさっさと作って重男さんの心情を聞かなくちゃいけないから。
手早く材料を炒めていく。先に炒めておくと煮えるのが早いし。
油の苦手な重男さんにはゴマ油を使う。
…。
視線を感じて振り返ると、すぐ後ろに重男さんがいてギョッとする。
「ど、どうしました?」
「いや…何だか人がいるっていいもんだなあと思ってねえ」
…。
やっぱり、辛いんだ…。