「ずっと、ずっと怖かったんだ…なんだ…嫌いだから見てたんだ…な、なんだ…なあんだ、もっと早く…早く聞けば良かった…」
彼は体を前に倒して、笑い転げていた。
僕は唖然としてこの、豹変した物体が本当に「小早川理央」なのか確信が持てずにいた。
鈴みたいな軽やかな声で、どこか邪悪に彼が笑う。
今度は僕が蒼白になる番だった。
彼は何なんだ?
泣き笑いみたいにして、起き上がった彼の眼はもう怯えてはいなかった。
「凄いなあ…榊君、すごいよ…。うん、俺だって吐き気がするくらい小早川理央って嫌いなんだ!
男の癖に下らない女に可愛い可愛いってさあ…そっかあ、嫌いなんだ、単に!
あースッキリした」
…この人、誰?
俺の唖然とした顔に、唇を歪めてニヤリとした。
無邪気とは程遠い、暗く淫らとさえ言える微笑。
「ね、今日のこと秘密にしてくれたら嬉しいな。
俺ね、君が学校これなくなるのは悲しいし」
そうすることが出来るんだよ、というわかりやすい脅し?
「学校生活は潤滑な方がお互い良いじゃない?
俺、感動しちゃったよ」
小柄でアイドルみたいに可愛らしい姿から発散される黒い波動。