しんとした室内の熱が退いていく…僕らは乱れた服のまま。
理央は「背中拭いて」
と言った以外、無言。
僕はその通り機械的に拭いてやった。
自身の服装を整えながら、本当に「妄想」だったんじゃないかとさえ思える。
理央は今や暗闇に慣れた目でしか見えない部屋で驚くほど寛いでいる。
心底、猫みたいだ。
夜でさえ白しらと見渡せる金の目を持っているのだろう。
「ねえ」
しばらくして、理央は囁いた。
「英士、聞かないの?」
聞く?
眉をあげて、何が、という顔をしてみせる。
ゆっくり近づいて、座る僕の真正面に跪き膝の上に頭を乗せた。
理央の重さを感じながら、言葉の出ない僕は…。
「俺を嫌いになってくれてありがとう」
初めて。
理央の声音に「本物」の響きを感じた。
本心だと思った。
震える指で彼の黒髪に触れ…撫でた。
愛しくて、殺してしまいたいくらいだ。
理央が立ち上がる。
僕もつられて、立ち上がって…。
小さな身体が押し付けられて僕はきつく抱き締めた。
「不思議だね、お互いのこと何にも知らないのに。
ずっと俺を見ていたろ?
ゾクゾクしてた…」