ホテルへの道すがら、成美は呟いた。
「本当は私……」
「?」
「知ってるんです…」
「?何を」
成美は守に向き直り、意を決して言った。
「守さん、栄転なんです。ここに」
守は目を見開いたが、直ぐに笑顔になり、成美を撫でた。
「やっぱり…。教えてくれてありがとう」
「私、嫌です。せっかく仲良くなれた…というより…せっかく本当の気持ちを伝えられたのに」
「勘弁してください。妻と離れてずっとあなたといたら、どっちが本当の奥さんか分からなくなる…」
守は成美の頬を手のひらで包んだ。
成美は顔が紅くなるのを感じ、
顔を背けた。
「そうやってどっちつかずにしても、私はあきらめません。当分、私も旦那との間に子供を持つ気はありません、だから」
成美はまたしても守に向き直った。
「今、一緒にいられる時間だけでも、目一杯愛してください」
「成美さん」
「早く、早く歩いてっ…ほら」
守は、回り込んで自分の背中を押す成美が、泣いているように見えた。