「停まってどうすんだあ、啓祐。」
「あ、いや… なんとなく。」
車内に暫しの沈黙が流れた。
「声かけるぞ、裕太? 」
「ええっ、マジかよ? 」
「当たって砕けろだ? それに、もしかしたら困ってるかも知れないからな。」
「困ってるって何に? 」
「馬鹿たれ、それを聞くんだよ? 」
と、その時だった、助手席側の窓ガラスがノックされた、果茄だった。パワーウィンドウでガラスが開かれる。
「すみません、道に迷っちゃって? 車で送って貰う事、出来ませんよね? 」
元男の果茄は男心をよく知っていた。こんな状況で断られる筈がない。
「ああ、ど、どうぞ、送って行くから、の、乗って下さい? 」
シドロモドロの啓祐だった。近くで見ると、メチャクチャ可愛い果茄にドギマギさせられていた。
「失礼しまーす? 」
後ろの席に乗り込む果茄、遠慮がない感じだ。
車が発進する。
「どこまで送って行ったら良いかな? 」
啓祐はバックミラーで果茄を覗き込んだ。
「乗せて貰えるとこまでお願いします。今日、泊まるとこがないんです、アタシ… ?」
「えっ? 泊まる所がないって、どうして?? 」
「 … 」
「あ、言いたくなかったら良いよ、良いよ? 」
「いえ… 実は家出しちゃって… 行くとこがないんです、アタシ…? 」
「あ… そ、そうなんだ… 」
沈黙、今度は裕太が不意に問いかけた。
「どうして家出なんかしたのさ? 」
「実は… 」
果茄は密かにほくそ笑んだ。何か面白い事を言ってやろうと、悪戯心でいっぱいになった。
「アタシ… 実は… オナニーが趣味なんです? 父にバレちゃって、叱られて家出しちゃったんです? 」
唖然。啓祐も裕太も固まってしまった。
「オナニーが好きな女って、最低ですよね? ? ???」