「ええ、これで全行程完了です。…ええ…じゃあ現地解散で…はい、お疲れ様です」
守はため息をつき、携帯電話の電源を切った。
あれから6日後、結局全日程を費やした守と成美は、予定通り飛行機で帰る事にしていた。
出発前夜の今日まで、2人は距離を置いたままだった。
「成美さん、寝台にしませんか」
ホテルで荷物をまとめていた2人は決めかねていた。
「そんな。これから飛行機のチケットをとらないと…もう間に合わな…?!」
成美をベッドに押し倒して、守は訊いた。
「最後だけ、わがままきいてくれませんか」
成美は顔を背けたが、守に向き直って、小さく頷いた。
「ありがとうございます」
寝台特急は嘘のように空いていた。
成美は少し疲れたように窓に寄り添って、ゆっくり動き出した景色を眺めていた。
「飛行機ならあっという間なんですね…この景色も。
…見ることもないのかな」
守は温かい珈琲を紙コップに淹れ、
成美に手渡した。
「ありがとうございます、あつっ…ふふ。ごめんなさい。
……雨の日から気温が下がって、
空気がぴんってしている気がします。
冬がくるんですかね…」
「ええ…」
「………あったかい家があって、お父さんとお母さんがいて、クリスマスにはクリスマスケーキがあって、大晦日には新年を祝って…。子供の頃の冬ってどうしてあんなにわくわくしてたんでしょうね…」
珈琲を啜りながら守は頷いた。
「………私はそういう普通の冬を迎えたいと思っています」
「………」