「転勤、ですか……」
双子の高校進学が決まったと同時に、
父親には転勤が言い渡されていた。
「ダメかね?確か仲埼くんは三人のお子さんがいたか…。
でも、もう高校生くらいじゃなかったかね?」
「あ…ええ。はい」
「なら、もう心配ないんじゃないかね?
そろそろ子離れをしないといかんのじゃあないか?仲埼くんも。ははは」
上司はかねてから転勤の希望を募っていた。
希望者が現れないままのため、ついに白羽の矢がたったのが…
「なんで!お父さんが…!」
「大丈夫、たったの一年だよ。
真菜」
「いやだよぉ…」
真菜は涙を流して父親に抱きついていた。
「真菜、泣かない…」
いつも大人びている真希も、注意しながら不安そうな表情を浮かべていた。
「なんだよ二人とも。俺を忘れてないかっての」
「そうだぞ?蓮兄ちゃんはいっつもいるだろ」
「頼りない」
「頼りないよぉ」
揃った声が蓮一の胸に刺さった。
「ほっとけよ!」
「ははは、頼もしいなお前たちは。蓮一、頼んだぞ」
「ああ。…俺の料理が無いからって、あっちで変なもん食べないでくれよ?」
「ああ、気をつける」
「お父さん、頑張ってね」
「うぅ、お父さぁあん!」
仲埼家のゆっくりと幸せな時間を刻んでいた歯車は、
この父親の転勤をきっかけに狂い始める。