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糸が切り落とされた人形の様に、ぴくりとも動かなくなった黒猫を暫くの間、僕は只……呆然と見つめていた。
さっきまでは、ついさっきまでは欝陶しいくらいに元気だった筈の黒猫が今は、ぐったりと横たわって身動き一つ見せない。
こいつが何をした?
こんな理不尽な事があっていいのかよ?
「くそっ!」
こんな事、あっていいはずがない!
僕は自転車から飛び降りると、すぐさま横たわる黒猫に駆け寄った。
「おい、大丈夫かよ!」
コンクリートの上で横たわる黒猫の小さな体を揺すりながら、僕は必死に声を張り上げた。
無力な僕に出来るのは、これくらいの事だから。
しかし、何度揺すってみても、声をかけてみても、黒猫はその目を開けてはくれない……動いてはくれない。
最悪の結末が僕の頭をよぎる……。
「あっちゃ〜、よりにもよって車にはねられて死んじゃうなんて、ついてないね〜」
見上げればマウアの顔があった。
その表情と言動からは、黒猫を助けようとゆう思いや感情は皆無に感じられる。
「なにやってんだよ!お前も助けろよ」
「助ける?別にいいじゃん、その子とはさっき会ったばっかだし、私には関係ないもん」
マウアは倒れる黒猫を真上から見下ろしながら両手を頭の後で組むと、面倒くさそうに呟いた。
マウアの言った事は、道理的には正しいのかも知れない。
だが、人間としては間違っている。
僕はマウアの態度と言葉に、怒りが込み上げてくるのが分かった。
「ふざけんなよっ!関係ないとか、んなことよりも、こいつ死にかけてるんだぞ」
声を荒げる僕を冷淡な瞳で見下ろしたマウアは、淡々とこう返答する。
「だから?」
それに対し僕は黒猫を抱き上げると、未だ横柄な態度を崩さないマウアを睨みつけた。
「人間だったら、助けたいって思うのが当然だろ」
それを聞いたマウアは、両の手を横にやりながら鼻で小さく笑った。
「残念、わたし人間じゃなくて悪魔だかんね〜、そゆの分かんないんだ」