「真希」
突然の雨に戸惑い、生徒玄関にたたずんでいた真希に声をかけたのは蓮一だった。
真希は返事を返しかけたが、
昨夜の事を思い出しそっぽを向いた。
「………昨日は悪かった」
蓮一は真菜を言い訳にするつもりはなかった。
謝罪以外に言葉が見つからなかった。
真希も昨夜の事を怒っているのではなく、自分が理不尽な要求をしている事を恥じているからこその態度だった。
「蓮兄、傘…入れてよ。
私、持って来てないから。
置き傘、してるでしょ」
「あ、ああ」
二人は雨の中、恋人同士の様にくっついたまま家路についた。
家に帰ると、蓮一は温かいココアを淹れた。
真希にタオルを渡すと、彼女は無言で濡れた髪を拭き始めた。
「…………蓮兄」
椅子に腰掛け、ココアを一口啜る兄に、
妹は問いかけた。
「昨日……なんで真菜の部屋で寝たの?」
蓮一は誤解を招かぬよう、
丁寧に説明した。
「……それで、真菜の部屋に行った。真菜は…自分の事を真希と比べてて、落ち込んでた。可哀想だと思って…」
「……寝たの?」
蓮一は頷いた。
真希は自分が馬鹿な事を質問しているのは充分、分かっていた。
しかし、訊ねずにはいられなかった。
「…真菜とは、してない」
「嘘」
「嘘じゃない。可哀想だからって、してあげるわけじゃない。……その代わり歯止めが利かなくなって、無理矢理、真菜の口で…」
真希は蓮一の行動に驚いたが、
同時に真菜には申し訳無い気持ちが生まれた。
(私が、全部悪いのに………………っ!)
真希は俯いて唇を噛んだ。
「真菜はやっぱり、¨する¨って事も分かってない…。これから学んでいけばいい事だから、俺からは言わない。
真希は、真希は……俺とまた寝たいか?」
真希は首を、縦に振った。
「蓮にぃ………わたし…本気みたい……っ!
こんなに滅茶苦茶なのに、
蓮兄と…。
…蓮兄を求めちゃう……!」
蓮一は真希の隣に座り、
背中を撫でた。
「真希……」
その時、家のドアが開き、
真菜のただいまの声が聞こえてきた。